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Boundary  作者: 楓シロ
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第99話 壁の中

  カイが止まったエスカレーターを見る。

「地下に向かう」


 軋む金属音を立てながら、半壊したエスカレーターを降りていく。


 下へ行くほど、空気が変わっていった。

 

 油と鉄に混ざって焼け焦げた配線の臭気。

 それなのに、その奥に、もっと古いカビのような何かが混じっていた。


 地下二階。

 照明が、誰も触れていないのに、また一つ点灯する。


「反応、近づいています」

 師乃がモニターを見つめたまま告げる。

「地下三階です」


「敵の気配は」

 カイが前を向いたまま問う。


「複数」

 師乃の返答は早かった。

「ですが、位置が固定されません」


「固定されない?」


 師乃は顎に手を置き、モニターを見つめた。

ただの数値の乱れにしては、規則性がありすぎる


「反応が揺れているんです。そこにいるはずなのに、測定するたび座標が微妙にズレる」


 蓮が顔をしかめた。

「なんだそれ……」


「行くぞ」


 低い声だった。

 誰に向けたものでもない。

 だが、その一言だけで、全員の呼吸が切り替わる。



そして地下三階へ足を踏み入れた、その瞬間だった。


 強烈な、殺気。


「――ッ!」


 闇が動いた。

 四方から、同時。


 カイが反射で刀を振る。


ーーーザザザザザ


 飛来した黒い影が、壁ごと真っ二つに吹き飛ぶ。


「来るぞ!」

 蓮が叫ぶ。


 次の瞬間、青白い閃光が地下フロアを走った。

 圧縮されたプラズマが、右側の通路を焼き抜く。


 だが敵は止まらなかった。


「前方!」

 紫苑の声とともに、氷壁が瞬時に展開される。


 ガガガガガッ!!


 目に見えない衝撃が氷へ叩き込まれ、白い亀裂が一気に走った。


 頭上の崩れた天井裏から奇襲が来た。

 落下してきた鉄骨と機械兵の群れ。


 その瞬間、師乃が静かに片手を上げる。


 鉄骨の落下速度が急に鈍くなり、逆に最前列へ飛び込んできた機械兵だけが異様に速く前へ滑った。

 タイミングを狂わされた機械同士が激突し、火花を散らして折り重なる。


「今です!」


 師乃の声と同時に、紫苑の氷が走った。

 凍結した機械の群れへ、蓮のプラズマが叩き込まれる。


 日和がアカルヒメを出した。赤い光の結界が張られ、後方からの攻撃が全部跳ね返った。


 誰か一人でも崩れれば、一気に押し切られる。

ソラはそれだけはさせまいと、必死に全員の動きを追った。

仲間の動きが見えるーー

ソラの能力が静かに広がった。


一瞬。

仲間たちの動きが噛み合った。


 バキバキと関節の狂った音を立てて闇から這い出てきたのは、100年前の戦争で破壊され、この地下に打ち捨てられていたはずの「旧時代の機械」の群れだった。

 錆びついた駆動系をコアの電磁波で無理やり動かされ、操り人形のように不気味に襲いかかってくる。


 さらに、その機械の群れの背後から、圧倒的なプレッシャーを放つ「黒いマントの人間」が数人、音もなく姿を現した。


「これ、今まで相手にしてきたやつらと違う!」

 蓮がプラズマで機械の群れを焼き払いながら叫ぶ。 


 その直後。

 黒マントの男が、爆炎の中から踏み込んできた。


「ッ!」

 蓮が咄嗟に腕で受ける。


 重いーーー腕の奥まで痺れが残る。

いつもの雑魚とは違う――蓮の顔から、いつもの軽さが消える。


「操られた機械の数も異常だけど……何より、あの数人の人間!」

 黒マントたちは、機械の群れの後ろから一歩も無駄なく前進してくる。


「幹部クラスがいやがる!」


「最後のサテライトだからな」

 カイが刀を振る。


 激しく火花が散った。

 ぶつかり合った衝撃だけで、周囲の瓦礫が吹き飛んだ。


 九条が第二部隊へ指示を飛ばし、モモが重力で複数の機械をまとめて宙へ浮かせる。


 だが、押し返せない。

 壊しても。

 止めても。

 機械が次々と現れる。

 まるで建物そのものが機械を吐き出しているみたいだった。


「どこから湧いてくるんですか!」

 蓮が叫ぶ。


「壁の中を移動しています!」

 師乃が即座に返した。

「コアが建物全体を制御している!」


「建物ごと敵か」


「そういうことです」



 カイが静かに刀を握り直したその瞬間。

 地下フロアの空気が、わずかに沈んだ。


 カイの視線が、壁の一点で止まる。


 次の瞬間。

 地下フロアのコンクリート壁面が、一直線に裂け飛んだ。


 ーーーズザザザザザ


 分断された壁の奥、隠し通路の空洞が剥き出しになる。

 そこに潜んでいた黒マントの男が、瓦礫ごと外へ叩き出された。


「そっちか」

 蓮が顔を引きつらせる。


「引きずり出す」

 カイが当然みたいに言った。


「電波塔の時と発想が同じじゃないですか!」


 九条が叫ぶ。

「くおらあああ!カイやめろううう」


「九条さん怒ってますよ」

 蓮が半笑いで言う。


「帰還後、始末書だからな!」


「なら帰ってから言え!」

 カイはそれだけ言うと、再び前へ踏み込んだ。


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