第98話 残された灯り
一歩足を踏み入れたビルの中は、異様だった。
戦争で大破したはずの、ガランとした広いフロア。
誰もいない。
それなのに、コアの莫大な電磁エネルギーを強制供給された古い配線がパチパチと火花を散らし、煤けた照明を煌々と輝かせている。
頭上のライトが、彼らの一歩後ろを追うように順々に灯っていく。
前へ進んでいるはずなのに、景色だけがほんの一瞬、取り残される。
時間そのものが、こちらに追いつこうとしているような変な感覚だった。
「電源が、どこかから供給されています」
師乃がモニターを操作する。
「旧AIコアのエネルギー反応と一致しています」
「コアが建物を動かしてるのか」
蓮が顔をしかめた。
師乃の視線が、崩れた天井をゆっくりとなぞる。
「今まで回収したコアとは構造が違います」
師乃がモニターへ視線を落としたまま言う。
「出力効率が異常に高い……他のサテライトより、何か条件が違う可能性があります」
「そんな差があるのか?」
蓮が周囲を見回した。
「ここ、昔は大阪府庁だったホー」
アウルが呟く。
ソラが目を丸くする。
「え、ここって行政施設だったんですか?」
「百年前はな」
九条が崩れた吹き抜けを見上げた。
師乃が静かに続ける。
「マザーが都市機能のすべてを管理していたなら、府庁のような中枢施設には、より大きな役割を持たせていた可能性はあります」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
この場所は何か違う。
崩れた庁舎の奥で、壁面のデジタル時計が一秒進んでは、また同じ時刻へ戻っている。
まるで百年前の時間だけが、まだこの場所に引っかかっているみたいだった。




