第100話 幹部
地下三階へ踏み込んでから、戦闘は途切れることなく続いていた。
旧AIコアに叩き起こされた大型重機。
そして、その影を縫うように現れた複数の黒マント。
数だけなら、これまでの敵と大差はない。
だが、質が違った。
――来た。
一切の猶予もなく、四方の闇からそれは押し寄せた。
戦災を比較的免れた地下物流搬入路。
旧AIコアの膨大な電磁波によって、眠っていた少数の大型重機が盾のように前面へ躍り出る。だが、本当に異常なのは、その重機の影から音もなく融け出してきた「4人の影」だった。
旧AIコア直属幹部。
重機の群れとは明らかに違う殺気だけが、その場の空気を変えた。
「散れっ!」
カイの鋭い怒号が地下に響き渡る。
全員が弾かれたように四方へと跳んだ。
着地と同時に、カイが踏み込む。
正面から、幹部の一人が質量を無視した速度で肉薄してきた。
次の瞬間。
キィィィィン――!
鼓膜を割るような高周波の音とともに放たれた真空の刃が、幹部を中心線から真っ二つに両断した。
幹部は反応する間もなく、そのまま崩れ落ちる。
「……次だ」
カイが冷酷に刀を振り抜く。返す刃で、迫る二台、三台の大型重機の駆動系を真空波で一瞬にして粉砕した。
圧倒的な、一撃必殺。
「クソッ、どこからこんなに湧いて出てきやがる!」
蓮が前髪を掻き上げながら叫んだ。
「この区画の構造全体が敵だ」
カイが迫る鉄塊を刀の腹で受け流しながら応じる。
「眠っていた鉄屑が、全部コアに乗っ取られてる」
巨大アームが振り下ろされる。
カイは一歩踏み込み、その根元ごとまとめて斬り飛ばした。
「応よ、まとめて焼いてやる!」
蓮の両手に、バチバチと青白い光が収束していく。
彼が放った超高密度のプラズマが、機械群を真正面から貫いた。
装甲が溶け、白煙を上げて崩れ落ちる。
「らあぁっ!」
蓮はそのまま、敵陣へ踏み込んだ。
右拳から放電、左手からプラズマの弾丸。凄まじい連撃。
だが、その爆炎の影から、二人目の幹部が音もなく飛び出し、蓮の首元へ細い刃を突き出した。
「――ッ!?」
しまっ――、蓮の背筋に冷や汗が走る。
完全に不意を突かれた。
だが、蓮は咄嗟に身をよじりながら、両手から放たれる激しい雷撃を至近距離で爆発させた。
バリバリバリィィィン!!!
「が……ぁっ!」
幹部が全身を激しく感電させ、黒焦げになって弾け飛ぶ。
危機一髪だった。蓮が荒い息を吐きながら床を蹴る。
「あぶねえ……ッ! 舐めやがって!」
「次、来る!」
今度は日和が、その華奢な身体で一歩前に出た。
彼女の背後に、ゆらりと、しかし圧倒的な神威を纏った真紅のシルエット――『アカルヒメ』が顕現する。
地下の淀んだ空気が、一瞬で熱を帯びた赤い光に満たされていく。
正面から五台の解体用重機が突進してきた。
その頭上、天井の死角から、三人目の幹部が日和めがけて暗殺の刃を手に落下してきた。
「――偏向!」
師乃の鋭い声と共に、空間が強引にねじ曲げられる。
軌道を狂わされ、幹部は日和の目の前のコンクリート床へと叩きつけられた。
「……邪魔するやつには、容赦しない」
ぽつりと、冷たい声。
日和の前に、真紅の結界が展開された。
次の瞬間、
ドゴォォォォン!!
凄まじい衝撃音が響き渡る。
解体用重機の攻撃が結界に触れたそっくりそのまま倍以上の威力となって反転したのだ。
五台の重機は、自らの放った攻撃をまともに浴び、完全に動きを止める。
「やばい」
蓮が呆然と呟く。
「マジでやばすぎるだろ、あの防御力。あんなに優しい笑顔なのに、やってること一番えぐいって……」
「…アカルヒメ、機嫌良さそう」
日和が、少しだけ満足そうに言った。
「それが怖ぇんだって!」
その時、通路の奥から最後の幹部が、突進してくる四台の重機を遮蔽物にして猛烈な速度で肉薄してきた。
ターゲットは、後方で指揮を執る九条。
「――させません!」
九条の手前で、紫苑が鋭く叫んで床に両手を突いた。
ガキィィィン!
激しい凍結音が響き、幹部が踏み込もうとした足元が、一瞬にして分厚い氷塊に包まれる。
超高速の突進の最中、完全に足を止められた幹部の身体が、ほんの一瞬、虚空で強引に固定された。
――パァン!
その刹那の隙を、九条は絶対に見逃さなかった。
迷いなく引き金を引いたハンドガンの一発が、重機の隙間を完璧に縫う。
銃弾は、固定された幹部の眉間へと、正確無比に突き刺さった。
幹部は糸が切れたように前のめりに転倒し、そのまま完全停止した。
「ナイスだ、紫苑!」
「はい! 九条さんも、あの隙をよく撃ち抜きましたね……!」
二人の鮮やかな連携に、蓮が
「相変わらず無茶苦茶な精度だな……」
と舌を巻く。
「褒めてる暇はない。大型が来る!」
九条がすかさず指示を飛ばすと同時に、師乃がモニターを叩いた。
「南側から、大型四台。ここへ向かって一直線です」
その時、モモが前方の一画に手をかざした。
「ほんと派手に暴れるわねぇ」
モモが五指をぎゅっと握りしめた。
その瞬間――。
彼女の周囲の重力が一瞬で反転し、天井の隙間からさらなる奇襲を仕掛けようとしていた数台の機械が、ふわ、と虚空に浮き上がる。
モモがそのまま腕を振り下ろした。
機械たちはまとめて床へめり込み、コンクリート床を派手に陥没させて動きを止めた。
「モモさん、壁と床が……!」
九条が、ハンドガンで機械のセンサーを的確に撃ち抜きながら声を上げる。
「だって、めり込ませたほうが動けないじゃない」
「だからって限度がありますよ!」
「大丈夫大丈夫。カイのせいにしとくから」
「おい、聞こえてるぞ」
カイが迫る機械を切り飛ばしながら返した。




