第63話 護れなかったもの
翌日。
ネットは、機構襲撃の映像で溢れていた。
崩落する東棟。暴走する無人機。逃げ惑う職員たち。
誰かが撮影した断片的な映像が、編集され、切り抜かれ、瞬く間に拡散されていく。
ー能力者が守ってくれると思っていたのに。
ー機構が襲撃されるなら、もう安全な場所なんてない。
ー感情的な人間に力を持たせるな。
ーAIが管理していた時代の方がマシだった。
ー能力者は自分たちだけで戦っている。一般市民は置き去りだ。
作戦フロアの大型モニターにも、その文字列が絶え間なく流れ続けていた。
「……また俺の映像、使われてる」
蓮が、自嘲気味に呟く。
爆炎の中で雷を放つ姿。
怒鳴る声。
切り取られた数秒だけが、何度も繰り返し再生されていた。
「見なくていいですよ」
ソラが静かに言う。
「わかってる」
蓮は短く答え、モニターを消した。
部屋が静かになる。
誰も、次の言葉を探せなかった。
「……凪さんが死んで」
蓮がぽつりと呟いた。
「御影さんは腕なくして。コアも奪われて」
ゆっくりと天井を見上げる。
「俺たち……何も守れなかったじゃないか」
誰も答えなかった。
重苦しい沈黙の中、カイだけが窓の外を見ていた。
「……だから、次は落とさない」
低い声だった。
感情を爆発させるわけでもない。
誰かを励ますわけでもない。
それでも、その一言だけで空気が変わった。
カイがゆっくりと振り返る。
「次の狙いは鶴見緑地だ。残っているコアを、あいつらは必ず取りに来る」
刀傷だらけの手を、静かに握る。
「次は――死守する」
「こんな状態で」
蓮が絞り出すように呟いた。
カイは答えなかった。
ただ、腰の刀に手を伸ばす。
革の巻かれた柄を、静かに握り直した。
ぎちり、と小さな音が鳴る。
蓮はその背中を見つめた。
しばらくして、小さく息を吐く。
「……だよな」
そう簡単に終われるはずがなかった。
「今度は間に合わせたいです」
ソラは包帯の巻かれた右手を見つめた。
「誰かを失うのはもう嫌です」
蓮がしばらく黙り込む。
それから、小さく息を吐いた。
「……わかったよ」
紫苑が静かに立ち上がる。
日和がノアを抱えたまま頷いた。
師乃がモニターを開く。
カイが刀の柄へ手をかける。
「行くぞ」




