表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Boundary  作者: 楓シロ
59/74

第59話 北側コア

 北側の旧倉庫区画。重苦しい鉄の扉を蹴り開け、カイを先頭に第一部隊が突入した。


 広大な倉庫の広場。その中央に、黒いマントを纏った男たちが5人、不気味に佇んでいた。

 彼らの中心、宙に浮かぶようにして、妖しく、禍々しく拍動する小さな光の球体があった。


 ――『旧AIコア』


 カイが即座に刀を構え、銀色の刀身を幹部へと向けた。

「……それを渡せ」


 黒マントの幹部が、ゆっくりと振り返る。深いフードの影に隠れ、その素顔は全く見えない。

「遅かったな、機構の猟犬ども」


 幹部が冷酷に手を掲げた。その合図とともに、倉庫の影から数十体もの無人機が一斉に飛び出し、牙を剥いてカイたちへと殺到する。


「下がっていろ!」


 カイが地を這うような低空の踏み込みで前線へ躍り出た。

 一閃、二閃、三閃――。

 極限まで無駄を削ぎ落とした剣閃が空間を切り裂き、突進してきたドローンたちが次々と火花を散らして床へ転がった。


「俺の死角を突こうなんて百年早いんだよ!」


 蓮が両手を広げ、周囲一帯に高圧の青白い電流を走らせる。バリバリと激しい音が響き、回り込もうとした小型機がまとめて機能停止に追い込まれた。


「幹部への経路を凍結する」


 紫苑が冷徹に床へ手を突いた。瞬時に絶対零度の氷壁が走り、幹部たちの退路を塞ごうとする。

 しかし――幹部が不敵に笑い、旧AIコアを高く掲げた。


 キィィィィン……ッ!!!


 脳を直接揺さぶるような、奇妙な高周波の光が空間を駆け抜ける。

 その光が触れた瞬間、紫苑の放った強固な氷壁が、まるで幻だったかのように一瞬でサラサラと溶け、霧となって消え去った。


「――旧AIコアが能力の根源領域に直接干渉しています!」

 後方で透過モニターを叩いていた紫苑が、焦燥の声をあげた。

「あのコアから、強力な干渉波がでてます!私たちの能力が一時的に強制無効化される可能性があります!」


「何だと……!?」

 紫苑がもう一度手を前に突き出す。しかし、手のひらからは微かな冷気すら立ち上らない。

「……出ない。魔力の循環が遮断されている」


「嘘だろ、蓮さんも頼む!」

 蓮が歯を食いしばり、体内の雷を絞り出そうとする。しかし、パチ……と微かな火花が爆ぜただけで、強大な電撃は完全に霧散した。

「クソッ、やべえ……完全に空っぽだ!」


「ノア……!」

 日和が青ざめた顔で、縋るようにノアのぬいぐるみを前に突き出した。

「ノア、大きくなって……お願い、ノア!」 


 ――静寂。


 いつもなら即座に響くはずの、あの野太く頼もしい声が聞こえない。ノアはただの小さな、動かないぬいぐるみのままだった。


「ノア……? 嘘、ノア、どこにいるの……!?」


 日和の手が、ガタガタと激しく震え始める。

 自分では何もできない。

 大切なノア一人助けられない。

 そんな無力感が、再び彼女を縛ろうとしていた。


 ソラは、隣で震える日和の横顔を見つめた。

 その瞳は怯えていた。けれど日和が見ているのは敵ではない。

小さなぬいぐるみのまま動かないノアだけだった。


 ソラは日和の肩にそっと手を置いた。

 その瞬間、日和の手のひらに、じわりと温かい体温が戻った。


「……あ」

 日和が小さく息を漏らす。恐怖の闇が一瞬で払われる。信じ合える仲間が、自分の隣にいる。もう、一人じゃない。


「……ノア」


 日和が、震える声を絞り出して、もう一度名前を呼んだ。


「――いるクマ」

 ボフン、と小さな煙が上がった。


 いつもよりずっと小さく、キーホルダーほどのサイズだった。しかし、ノアは確かにそこに現れ、短い腕で日和の身体をぎゅっと抱きしめ返した。

「日和クマ。心配ないクマ。オレは、ずっとここにいるクマ」

「ノア……!」

 日和は小さなノアを強く抱きしめた。涙は出なかった。けれど、彼女の手の震えは、完全に止まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ