第58話 重いのはダメです
「――凪っっっ!!!!!」
モモの悲鳴のような絶叫が響き渡る。
モモは煙が渦巻く瓦礫の山の前にへたり込み、なりふり構わず、必死になって巨大なコンクリートの破片を退け始めた。
自身の固有能力である重力操作を、限界まで展開する。
「浮きなさい……! 浮きなさいよ、お願いだから……っ!」
自身の衣服が汚れ、指先から血が滲むのも構わず、一つずつ、丁寧に、けれど狂ったような速度で瓦礫を浮かせて退かしていく。その両手はガタガタと恐怖で震えて止まらない。
「凪! 凪、聞こえる!? 返事しなさいよ、凪!!」
返声はない。ただ、周囲の火災の爆ぜる音だけが虚しく響く。
モモは涙で視界を滲ませながら、さらに奥の瓦礫を退けた。
「……なぎ……」
瓦礫の隙間から、赤く染まった小さな手が見えた。
「凪!!」
モモは駆け寄り、凪に覆いかぶさっていた最後のコンクリートを跳ね除けた。
ーーそこに、凪が横たわっていた。
意識は、辛うじてあった。しかし、その身体は崩落の凄まじい質量によって完全に破壊され、指先一つ動かすことすらできない状態だった。
「凪、しっかりしなさい! 今、すぐに医療班を呼ぶから! さくらをここに引っ張ってくるから、だから……っ!」
モモが震える手でインカムを叩こうとする。
「……モモ、隊長……」
凪が、本当にゆっくりと瞼を開けた。
なきじゃくるモモを見てーーーいつも通りの悪戯っぽい生意気な笑顔をふっと浮かべた。
「……重いのは……ダメ、っすよ……」
モモの手が止まる。
「何言ってるのよ……!」
「朝まで…話…聞けそうにないなぁ…」
「やめて…喋らないで…」
モモの声が震える。
凪は、ぼんやりとモモを見つめた。
「…心まで重くなったら……ダメっすよ」
ふっと、凪の瞳から光が消え、静かにその瞼が閉じられた。
「凪……? 凪、嘘でしょ……? 目を開けなさいよ、凪!!」
モモは急速に冷たくなっていく凪の手を両手で硬く握りしめたまま、その場から一歩も動けなくなった。
周囲では、まだ爆発音が響いていた。
誰かの叫び声も、押し寄せる無人機の駆動音も、途切れてはいない。
けれど、モモの世界からは、すべての音が消え去っていた。
なだれ込んでくる激しい赤光の檻の中で、ただ一人、冷たくなっていく相棒を抱きしめることしか、今の彼女にはできなかった。




