第51話 その時諜報は
その時、激しく火花が散る廊下の角に、すっと佇む影があった。
壁に背をつけ、淡々と手元のモニターを操作している。戦闘服には不釣り合いな、いつもの私服。
「……御影さん!」
ソラが声を上げる。
諜報部隊の御影が、静かに目を上げた。
相変わらず年齢の判別がつかない、感情の起伏のない無表情。
「状況は把握している」
「おいおい、諜報の御影さんまで前線に出るのかよ」
蓮が驚きと呆れの混ざった声を出す。
「機構が攻撃された。私の職場がなくなると困る。今回は例外だ」
淡々とした、抑揚のない声。
その瞬間、御影の足元に、ぽたりと血が落ちた。
ソラが息を呑む。
「……御影さん、怪我……!」
「問題ない」
「いや、全然問題ありそうですけど!?」
「歩けている」
見れば、上着の袖口が僅かに裂け、赤黒く滲んでいる。
だが御影は見向きもしなかった。
カイだけが、その傷を一瞥する。
「制御室の配線図を持っている」
御影が師乃へむけてモニターを差し出した。
「最奥端末への隠し迂回路だ。これを使えば内部からハッキングを強制停止できる」
「……! 助かります!これで勝算が見えました!」
師乃が即座にデータを受信し解析を始める。
「それから、もう一つ」
御影の声は静かだった。
「敵の指揮系統は外部ではない。北側旧倉庫区画に敵の幹部が潜入している。旧AIコアを使い、現地から無人機群を制御している」
「どうやって突き止めた」
カイが問う。
「諜報だからだ」
カイは、御影の服に付着した硝煙の匂いと鉄錆を見逃さなかった。
「……一人で潜ったのか」
「仕事だ」
短い沈黙。
「制御室の防衛を頼む。私は北側へ戻る」
御影が踵を返す。
「え、まだ行くんですか!?」
ソラが思わず声を上げる。
「あそこ、いま敵のど真ん中ですよね!」
「仕事だ」
それだけを残し、
御影の背中は赤い警報灯の奥へ消えた。
床には、点々と御影の血だけが残っていた。
報告書はアレですが、実は御影はシゴテキ男ですよ。




