表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Boundary  作者: 楓シロ
49/74

第49話 襲撃

 その朝は、どこまでも普通だった。


 第一部隊のフロアでは、師乃が朝食の支度をしていた。フライパンの上で、卵焼きの端がほんの少し黒く焦げる。

「あ、師乃でも料理で失敗することあるんだ」

 めざとく見つけた蓮が、ニヤニヤしながら口を挟んだ。

師乃は表情一つ変えず、淡々と皿に盛り付ける。

「……余計なお喋りをしていないで、黙って食べてください」


 少し離れた席では、紫苑が静かに羊羹を口に運んでいた。朝の定食の横に、あからさまに浮いている和菓子。

「紫苑さん、朝から羊羹ですか?」

 ソラが思わず苦笑しながら尋ねると、紫苑は真っ直ぐにソラを見返した。

「糖分の補給だ。何か問題があるか」

「いや、ないですけど……元気ですね」


 日和は足元に置いた大きなリュックの横で、ぬいぐるみのノアを膝に抱いて座っていた。その影から、猫のクロエが師乃の作った卵焼きをじっと狙って前足を伸ばす。

「だぁめ」

「何ニャ」

「何じゃないでしょ。クロエ、今完全に取ろうとしてたじゃん」

 蓮が突っ込む。

「それは蓮の気のせいにゃ」

 いつもの、騒がしくて、どこか締まりのない会話。

 カイは腰に愛刀を差したまま、いつもの定位置で静かにコーヒーをすすっていた。


ーその瞬間。


 ズガァァァァァン!!!!!!


 機構全体を揺るがす凄まじい爆音が突き抜けた。

 天井の照明が一斉に明滅し、食堂の窓ガラスが蜘蛛の巣状に砕け散る。

「っ!?」

 ソラが反射的に身を縮めた。

 直後、透過モニターが一斉に赤く染まる。


【警告:外壁第一層 損壊】

【防衛システム 強制切断】

【 unidentified access detected 】


 師乃の目が見開かれた。

「防衛AIが……乗っ取られています!」


「は……? 何これ、敵襲!?」

 蓮が椅子を蹴立てて立ち上がった。

 カイが静かにコーヒーカップを置く。その目が、窓の外へと向けられた。

 青空だったはずの景色が、まるで黒い雲に覆われるように、急速に暗転していく。

 無数の影ーー


 すべて無人機だった。

 数え切れないほどの軍用ドローンや自律型兵器の群れが、不気味な駆動音を響かせながら、機構の本部ビルへと向かって空を埋め尽くしていた。


「全員、戦闘準備。出るぞ」

 カイの低く鋭い声がフロアに響いた。


 ――ごううんっ!!


 地響きと共に、特級の防空シェルター並みの堅牢さを誇る建物全体が、大きく不穏に揺れた。

 窓の外で、防衛用大型機兵が真横から爆散した。

 燃えながら落下した鋼鉄の巨体が、下層区画の道路へ激突する。


 モニターの被害報告が、一秒ごとに増えていく。

 遠くで悲鳴が上がった。


赤く明滅する廊下を全速力で走りながら、師乃が腕の透過モニターに指を走らせる。


「無人機の数、現在確認できるだけで二百以上……! なおも後方から増え続けています!」

「二百以上って、どっからそんな数が湧いて出たんだよ!?」

 蓮が叫ぶ。

「すべての機体の制御プロトコルが書き換えられています。旧AIコアの電子支配下にあると見て間違いありません」

「防衛システムはどうした! 自動迎撃が作動していないぞ!」

カイが走りながら刀の柄に手をかけた。

「現在、ハッキングの経路を確認中ですが……っ」

 師乃の言葉が、最悪のデータを示して止まった。

「……機構の防衛システムの一部が、すでに完全にクラックされています」

「どこまで侵食されてる」

「外周ブロックの約三割。現在も急速にエリアが拡大しています」


 カイが短く舌打ちをした。

「中央制御室を死守しろ。あそこを完全に落とされたら、機構の全防衛システムが寝返って俺たちに牙を剥くぞ」


 次の瞬間、すさまじい爆音と共に、機構の正面玄関の強化ガラスが内側へと派手にぶち破られた。

 赤い眼光を妖しく光らせた無人機群が、雪崩のように内部へと侵入してくる。小型の暗殺ドローンから、人間の背丈を遥かに超える重装甲の陸戦型ロボットまで、そのすべてが殺意の塊だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ