第48話 プリンは命と同じくらい大事です。
それは、ごくありふれた夕食の時間の出来事だった。
宿舎のダイニングには、珍しく全員が揃っていた。
師乃が作った大皿料理が机いっぱいに並び、湯気と一緒に穏やかな空気が広がっている。
「これうまっ! 師乃、今日の唐揚げ当たりじゃね!?」
蓮が口いっぱいに頬張りながら騒ぐ。
「昨日も同じメニューですが」
師乃が無表情のまま冷ややかに返した。
「えっマジ?」
「お前の舌は雰囲気で生きてるのか」
紫苑が呆れたように、自分のグラスの水を飲む。
その横で、カイはまだ半分眠った顔のまま味噌汁を飲んでいた。
モモはというと、なぜか真剣な顔でスマホを見つめている。
「ねえ、“返信は三時間空けた方が追いたくなる”って本当だと思う?」
「食事中に妙な恋愛戦略会議を始めるな」
紫苑が即答した。
「えー、だって死活問題じゃない!」
「重要なのは今お前が醤油を倒しかけてることだ」
「うそっ」
モモが慌てて醤油を押さえる。
ーーその瞬間だった。
「うおっ!?」
ガタァっと蓮の椅子が派手に傾いた。
後ろ脚だけでバランスを取っていた椅子が限界を迎え、そのまま蓮の身体ごと大きく後ろへ倒れ込む。
「蓮さんっ!!」
ソラが叫ぶ。
ガンッ!!
蓮が咄嗟にテーブルクロスを掴んでしまい、机全体がぐらりと傾いた。
「わーーーっ!!」
皿が滑る。
スープが波打つ。
コップが倒れる。
まさに一瞬にして大惨事だった。
……ただ一人を除いて。
「…………」
日和だけが、異様な反応速度で自分のプリン皿を抱えていた。
両腕でしっかり胸元に守り込み、椅子の上で小動物みたいに丸くなっている。
プリンだけは絶対に死守するという鋼の意思を感じる。
ーー訪れる、一瞬の静寂ーー
全員の視線が、日和とプリンへ集まった。
日和はその視線の意味がわからない、という顔で、そっとスプーンを握り直した。
「……危なかった」
「いやそっち!?」
ソラが思わずつっこむ。
「お前まず俺の心配しろよ」
蓮が床で転がったまま笑う。
「プリンは一日一個しかない」
「命より重ぇのかよ」
日和は少し真面目に考えてから、
「……同じくらい」
と至って真顔で答えた。
その瞬間、モモが吹き出し、ソラも耐えきれず笑い始める。
紫苑は呆れたように額を押さえ、御影は肩を揺らしていた。
その騒ぎの中心で。
「蓮」
師乃だけが静かな声を出した。
「……はい」
「後で片付け手伝ってください」
「………はい」
蓮は床に転がったまま、今度こそ静かに息を引き取った(精神的に)。




