第44話 敵の狙いは
その時、上座の伊那瀬が手元のモニターを叩いた。
「……感情論の言い合いはそこまでだ。本題に入る」
円卓の中央に、先ほどフロアで流れていたネットのニュース映像が拡大投影された。
蓮の雷撃が激しく暴走し、建物が破壊され、コメント欄がバッシングで埋め尽くされている、あの切り取られた映像だ。
「これが、現在のリアルな『世論』だ」
伊那瀬が冷徹に告げる。
「昨日の事件以降、ネット上での能力者に対するバッシングは前日比で数百%にまで急増している。一般市民の間には今、『感情的な能力者が暴走し、無辜の市民を傷つけた』という認識が完全に定着しつつある」
「文脈を無視した、悪質な切り取り映像です!」
師乃が語気を強めて反論する。
「実際は――」
「だが、これが爆発的に拡散され、大衆に信じられている。それが現実だ」
伊那瀬の声が、師乃の言葉を冷たく圧殺した。
「敵の真の狙いはこれだ。模造コアを使って能力者や市民を暴走させ、その最悪な瞬間だけをメディアに拡散する。それにより、『人間の持つ感情や力はあまりにも危険だ』という恐怖と不信感を植え付ける。そうして、大衆自らの口から『やはり昔のように、すべてを感情のないAIに管理させるべきだ』という世論を形成しようとしているのだ」
会議室が、張り詰めた静寂に包まれた。
九条が、顎に手を当てて低く呟く。
「なるほどな……。模造コアは、人間に『考えること』をやめさせるための装置でもあるわけか」
会議室に、重い沈黙が落ちた。
伊那瀬が静かに口を開く。
「だからこそ、旧AIコアの回収は急務だ」
円卓中央に、新たな地図が投影される。
「次の有力地点が判明した。――鶴見緑地だ」
カイが鋭い目でその地図を睨む。
「根拠は」
「ここ数日間、鶴見緑地周辺で微弱な電磁波の異常反応が複数回確認されている。これは、旧AIコアが起動する際に発する固有のエネルギー波形と完全に一致する」
「いつからだ」
「三週間前からだ」
「三週間、か……」
カイが少し視線を落として考え込む。
「なら、敵はすでに潜入し、動いている可能性が高いな」
「だからこそ、急ぐ必要があるのだ」
伊那瀬がカイを真っ直ぐに見据え、冷酷に命令を下した。
「第一部隊。鶴見緑地へ赴き、当該エリアの調査・隠蔽施設の探索を命じる。旧AIコアを発見次第、迅速に回収せよ」
「了解ー」
カイは、あっさりとそう答えた。




