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Boundary  作者: 楓シロ
45/81

第45話 自分のために

 会議が終了し、重苦しい会議室から廊下へと出た。

 歩くカイのすぐ隣を、賢者様がゆっくりとした足取りで並んで歩く。


中央の廊下で、賢者様がふいに足を緩めた。


「……面白いのう」

「何がです?」

 カイが横目で見る。

「あの小僧じゃよ。ソラとかいう」

 賢者様は、どこか楽しそうに喉を鳴らした。

「普通、人は“力”を持つほど、一人で抱え込もうとする。じゃがあやつは逆じゃ」

「……」

「他人を頼った時の方が、強くなる」

 カイが少しだけ目を細める。

「珍しい能力ですか」

「いや。珍しいのは能力の方ではない」

 賢者様は笑った。

「“他人を信じられる人間”の方じゃ」


「まあ、あいつなら大丈夫でしょう」

「ふむ。あの子は、歪んではおるが根底に深い愛情を受けて育っておるからな」


 賢者は一度言葉を区切り、カイの顔を見上げた。

「そして、蓮の奴も、少しだけ変わったな?」

「……そうですね」

「あの頑なだった少年が、自ら助けを求められた。彼にとって途方もなく大きな一歩じゃよ」

賢者様は杖をコツコツと鳴らしながら、ゆっくりと廊下の奥へと歩いて行った。

 

  ◇


 第一部隊のフロアに戻ると、蓮は備え付けの透過モニターの前に座っていた。

 画面には、相変わらず能力者への批判が流れ続けている。

「……まだ見てたんですか」

 後ろから声をかけると、蓮が「あ」と振り返った。

「いやー、なんか気になってさ」

 そう言って笑う。でも、その笑顔は少しだけぎこちなかった。


 ソラは蓮の隣に腰掛け、一緒にモニターを覗き込む。


『能力者は危険』

『感情なんて不安定なものに力を持たせるな』


 冷たい文字が、次々と流れていく。

 蓮がふっと息を吐いた。

「……まあ、怖いよな。昨日の俺」

「でも、蓮さんは守ろうとして――」

「結果だけ見たら、暴走して街ぶっ壊してる危ないやつだから」

 軽く言ったその言葉に、ソラは何も返せなかった。

 沈黙が落ちる。

 やがて蓮が、自分でモニターを閉じた。


「おまえさ」

「?」

「昨日、お前あの中に突っ込んできたじゃん」

 蓮は前を向いたまま言った。

「あんなの普通、逃げるだろ」

「逃げませんよ」

「そこは、逃げろって」

 ソラは、膝の上で白く自己主張している包帯の手をじっと見つめ、少しだけ考えてから、心の一番奥にある本音を言葉にした。

「……逃げたら後悔しますから」

蓮の視線がゆっくりソラを見る。

「また何もできなかったって、あとで絶対、自分が嫌になるから」


蓮はしばらく黙っていた。

「……そうか」

「?」

「てっきりさ」

蓮は椅子の背もたれに深く身体を預け、天井を仰いだ。

「お前も自分を犠牲にして飛び込んできたのかと思ってた」

「……はは」

ソラが気まずそうに頭を掻くと、蓮がふっと吹き出した。

「なんか安心したわ」

「え?」

「お前、自分のためにも動けんのな。」

「?」

ソラは首を傾げる。

蓮はそれ以上何も言わなかった。

さっきまでのニュース画面ではなく、ソラの包帯の巻かれた手をみていた。



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