第45話 自分のために
会議が終了し、重苦しい会議室から廊下へと出た。
歩くカイのすぐ隣を、賢者様がゆっくりとした足取りで並んで歩く。
中央の廊下で、賢者様がふいに足を緩めた。
「……面白いのう」
「何がです?」
カイが横目で見る。
「あの小僧じゃよ。ソラとかいう」
賢者様は、どこか楽しそうに喉を鳴らした。
「普通、人は“力”を持つほど、一人で抱え込もうとする。じゃがあやつは逆じゃ」
「……」
「他人を頼った時の方が、強くなる」
カイが少しだけ目を細める。
「珍しい能力ですか」
「いや。珍しいのは能力の方ではない」
賢者様は笑った。
「“他人を信じられる人間”の方じゃ」
「まあ、あいつなら大丈夫でしょう」
「ふむ。あの子は、歪んではおるが根底に深い愛情を受けて育っておるからな」
賢者は一度言葉を区切り、カイの顔を見上げた。
「そして、蓮の奴も、少しだけ変わったな?」
「……そうですね」
「あの頑なだった少年が、自ら助けを求められた。彼にとって途方もなく大きな一歩じゃよ」
賢者様は杖をコツコツと鳴らしながら、ゆっくりと廊下の奥へと歩いて行った。
◇
第一部隊のフロアに戻ると、蓮は備え付けの透過モニターの前に座っていた。
画面には、相変わらず能力者への批判が流れ続けている。
「……まだ見てたんですか」
後ろから声をかけると、蓮が「あ」と振り返った。
「いやー、なんか気になってさ」
そう言って笑う。でも、その笑顔は少しだけぎこちなかった。
ソラは蓮の隣に腰掛け、一緒にモニターを覗き込む。
『能力者は危険』
『感情なんて不安定なものに力を持たせるな』
冷たい文字が、次々と流れていく。
蓮がふっと息を吐いた。
「……まあ、怖いよな。昨日の俺」
「でも、蓮さんは守ろうとして――」
「結果だけ見たら、暴走して街ぶっ壊してる危ないやつだから」
軽く言ったその言葉に、ソラは何も返せなかった。
沈黙が落ちる。
やがて蓮が、自分でモニターを閉じた。
「おまえさ」
「?」
「昨日、お前あの中に突っ込んできたじゃん」
蓮は前を向いたまま言った。
「あんなの普通、逃げるだろ」
「逃げませんよ」
「そこは、逃げろって」
ソラは、膝の上で白く自己主張している包帯の手をじっと見つめ、少しだけ考えてから、心の一番奥にある本音を言葉にした。
「……逃げたら後悔しますから」
蓮の視線がゆっくりソラを見る。
「また何もできなかったって、あとで絶対、自分が嫌になるから」
蓮はしばらく黙っていた。
「……そうか」
「?」
「てっきりさ」
蓮は椅子の背もたれに深く身体を預け、天井を仰いだ。
「お前も自分を犠牲にして飛び込んできたのかと思ってた」
「……はは」
ソラが気まずそうに頭を掻くと、蓮がふっと吹き出した。
「なんか安心したわ」
「え?」
「お前、自分のためにも動けんのな。」
「?」
ソラは首を傾げる。
蓮はそれ以上何も言わなかった。
さっきまでのニュース画面ではなく、ソラの包帯の巻かれた手をみていた。




