第43話 ソラの能力
重厚な会議室のドアを開けると、すでに円卓には醍醐、久世、九条、モモ、そして賢者様が席に着いていた。
後ろの方にソラが待機していた。
遅れて入ってきた伊那瀬が、悠然と腰を下ろす。
中央本部長の醍醐が重々しく口を開いた。
「昨日の通天閣周辺における事件の報告、および今後の対応について話し合う。まず師乃、収集したデータの分析結果を報告しろ」
「はい」
師乃が起立し、中央の大型モニターに複雑な解析資料を映し出した。
「今回の模造コアによるテロについて、特筆すべき点が二点あります」
師乃が画面を切り替える。
「一点目。通天閣の最地下区画から、廃棄されたはずの『旧AIコア』の残骸が発見されました。今回の敵の模造コアは、ここから抽出・製造されたと考えられます。これで、使用済みを含めて計4個の旧AIコアの所在が確認されました。」
会議室に緊張が走る。師乃はさらに画面をスクロールした。
「そして二点目。ソラ隊員の『固有能力』について、今回の事件で極めて重要な新事実が判明しました」
全員の視線が、一斉にソラへと集まる。
ソラは緊張で、思わず小さく背筋を伸ばした。
「以前の事件では、能力を使うと、激しい反動が発生してました。しかし今回は、協力して発動した結果、その反動が大幅に軽減されたのです」
師乃が透過モニターの波形データを示す。
「数値を比較分析したところ、ソラさん単独発動時の身体負荷を100とした場合、今回の実数値は30前後にまで低下しています」
「三分の一以下か」
九条が低く呟いた。
「え……? なんで、そんなに違うんですか?」
ソラが思わず身を乗り出した。
「今回は単独発動ではなかったからです」
師乃が新たな波形を表示する。
「簡単に言えば、今までは一人で抱えていた反動を、複数の流れに逃がせたということです」
「……だからそんなに痛くなかったのか」
「はい」
カイが横からこちらを見て
「1人で抱えるなってことだ」
「そういうことです」
ソラは机の下で、包帯の巻かれた右手を見つめた。
痛みはあった。けれど、あの命を削られるような重さは、どこにもなかった。
――一人じゃ、なかったからだ。
「それともう一つ」
師乃が眼鏡のブリッジを押し上げる。
「敵の模造コアは、人間の抑圧された感情を負の方向へ増幅させます。怒りをさらなる怒りに、諦めを絶対的な無気力に…」
師乃がソラをみながら
「しかし、ソラさんの能力はその逆です」
「逆とは?」
醍醐が問いかける。
「つまりソラさんの能力は、侵食された感情そのものに干渉していた可能性があります」
「だから模造コアを無効化できた?」
「そうです。そしてこの能力は、自分の感情をごまかしていない人間には、侵食も、正気化も効きにくい傾向があります」
「だからカイにはきかないわけね」
第一部隊のモモが、おもしろそうに口笛を吹く。
カイは何も言わず、つまらなそうにそっぽを向いた。
「へえ、面白い能力じゃない。まさに『信じる力』そのものってわけね」
「厄介な能力だ、と言わざるを得ないな」
久世が不機嫌そうに腕を組み、冷ややかな声をあげた。
「だから俺は危険だと言っている」
「今回は、完璧に制御できていた」
カイが短く遮る。
「今回は、たまたまだろう!次失敗したらどうするつもりだ!」
「じゃあ、次も1人で抱えさせなければいい。それだけの話だ」
カイの断固とした態度に、久世は不快そうに少し目を細めた。
「それこそ、保証がないだろう!」




