第42話 報道
朝の光が差し込む第一部隊のフロア。その中心にある大型モニターには、冷酷な現実が映し出されていた。
蓮は、その前に立ち尽くし、じっと映像を見つめていた。
――その顔に、笑顔はなかった。
画面に流れているのは、昨日、通天閣周辺で起きた大騒動のニュース映像だ。
しかし、それは悪意を持って巧妙に「切り取られた」ものだった。
謎の電波によって無気力になった市民たちがバタバタと倒れ込む、悲惨な場面。
そこに治安維持組織(機構)の能力者たちが駆けつける場面。
……そして次の瞬間、まるで能力者が市民を襲ったかのように、蓮の青白い雷撃が周囲の建物を破壊し、暴走している凄まじいスロー映像だけが、執拗に繰り返されていた。
画面の横では、濁流のようにネットのコメントがリアルタイムで流れ続けている。
『能力者が一般市民を攻撃しているぞ!』
『感情的な人間に、こんな危険な力を持たせるな』
『やっぱり人間はダメだ。昔みたいに、AIがすべてを管理する世界の方が公平で安全だった』
『能力者なんて、結局は自分たちの保身と力のことしか考えていない』
『弱い立場の人たちを守ってくれるヒーローだと思っていたのに、幻滅した』
『感情は危険だ。感情こそが、人をおかしくさせる元凶だ』
流れる文字を、蓮はただ静かに見つめていた。
そこへ、ソラがそっと隣に歩み寄る。
「……蓮さん」
「あはは。俺、めちゃくちゃ悪者に見えるよな、これ」
蓮は言った。いつものようにへらへらと笑おうとした。けれど、唇の両端は不自然に強張り、どうしても上手く笑うことができなかった。
「まあ……実際、制御できずに暴走してたのは事実だから、仕方ないんだけどさ」
「でも、あれは敵の模造コアに理由があって、蓮さんはみんなを守ろうと――」
「理由なんて、関係ないんだよ。こういう場所ではね」
パチン、と蓮が指を鳴らすと、モニターの電源が消えた。
青白い光が消え、フロアに重苦しい静寂が戻る。
壁際のソファに深く腰掛けていた隊長のカイが、ゆっくりと立ち上がった。
「会議だ。行くぞ」
ソラは流れていた言葉を思い出した。
『感情は危険だ』
その文字だけが、
妙に胸の奥へ引っかかって離れなかった。
◇
機構の中央会議室へと向かう、無機質な長い廊下。
前方から、カツ、カツ、と規則正しい、硬質な足音が響いてきた。
カイが、わずかに歩調を緩める。
歩いてきたのは、伊那瀬だった。
背が高く、細部まで整った美しい顔立ち。皺一つないきっちりとした黒い高級スーツを纏っている。その瞳はカイと酷似していたが、宿っている温度が根本的に違っていた。冷徹な、絶対的なシステムのような眼差し。
「カイ」
「……どうも」
カイは視線すら合わせず、足を止めずに通り過ぎようとする。
「昨日の件だ」
伊那瀬の冷たい声が廊下に響く。
「お前の部下の件は管理責任の問題だぞ」
「暴走じゃありません。敵の模造コアの侵食による影響です。私の部下もまた、その被害者だ」
「世間はそう見ていない」
「事実を言ったまでです」
伊那瀬は立ち止まり、遠ざかっていくカイの背中に向けて、警告を突き刺した。
「お前の第一部隊は、いつも型破りで問題ばかり起こす。……会議で説明しろ」
「そうなったら、その時に考えます」
カイは一度も振り返らなかった。
ソラは、その広い背中を一歩後ろから見つめていた。
カイの表情は見えなかった。けれど、その足取りは微塵もブレておらず、いつも通りの確固たる歩き方だった。それだけで、ソラの胸のざわつきはスッと収まった。




