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Boundary  作者: 楓シロ
42/74

第42話 報道

 朝の光が差し込む第一部隊のフロア。その中心にある大型モニターには、冷酷な現実が映し出されていた。

 蓮は、その前に立ち尽くし、じっと映像を見つめていた。

 ――その顔に、笑顔はなかった。


 画面に流れているのは、昨日、通天閣周辺で起きた大騒動のニュース映像だ。

 しかし、それは悪意を持って巧妙に「切り取られた」ものだった。


 謎の電波によって無気力になった市民たちがバタバタと倒れ込む、悲惨な場面。

 そこに治安維持組織(機構)の能力者たちが駆けつける場面。


 ……そして次の瞬間、まるで能力者が市民を襲ったかのように、蓮の青白い雷撃が周囲の建物を破壊し、暴走している凄まじいスロー映像だけが、執拗に繰り返されていた。


 画面の横では、濁流のようにネットのコメントがリアルタイムで流れ続けている。


『能力者が一般市民を攻撃しているぞ!』

『感情的な人間に、こんな危険な力を持たせるな』

『やっぱり人間はダメだ。昔みたいに、AIがすべてを管理する世界の方が公平で安全だった』

『能力者なんて、結局は自分たちの保身と力のことしか考えていない』

『弱い立場の人たちを守ってくれるヒーローだと思っていたのに、幻滅した』

『感情は危険だ。感情こそが、人をおかしくさせる元凶だ』


 流れる文字を、蓮はただ静かに見つめていた。

 そこへ、ソラがそっと隣に歩み寄る。


「……蓮さん」

「あはは。俺、めちゃくちゃ悪者に見えるよな、これ」


 蓮は言った。いつものようにへらへらと笑おうとした。けれど、唇の両端は不自然に強張り、どうしても上手く笑うことができなかった。


「まあ……実際、制御できずに暴走してたのは事実だから、仕方ないんだけどさ」

「でも、あれは敵の模造コアに理由があって、蓮さんはみんなを守ろうと――」

「理由なんて、関係ないんだよ。こういう場所ではね」


 パチン、と蓮が指を鳴らすと、モニターの電源が消えた。

 青白い光が消え、フロアに重苦しい静寂が戻る。


 壁際のソファに深く腰掛けていた隊長のカイが、ゆっくりと立ち上がった。

「会議だ。行くぞ」


ソラは流れていた言葉を思い出した。


『感情は危険だ』


 その文字だけが、

 妙に胸の奥へ引っかかって離れなかった。


    ◇


 機構の中央会議室へと向かう、無機質な長い廊下。

 前方から、カツ、カツ、と規則正しい、硬質な足音が響いてきた。

 カイが、わずかに歩調を緩める。


 歩いてきたのは、伊那瀬だった。

 背が高く、細部まで整った美しい顔立ち。皺一つないきっちりとした黒い高級スーツを纏っている。その瞳はカイと酷似していたが、宿っている温度が根本的に違っていた。冷徹な、絶対的なシステムのような眼差し。


「カイ」

「……どうも」

 カイは視線すら合わせず、足を止めずに通り過ぎようとする。

「昨日の件だ」


 伊那瀬の冷たい声が廊下に響く。

「お前の部下の件は管理責任の問題だぞ」

「暴走じゃありません。敵の模造コアの侵食による影響です。私の部下もまた、その被害者だ」

「世間はそう見ていない」

「事実を言ったまでです」


 伊那瀬は立ち止まり、遠ざかっていくカイの背中に向けて、警告を突き刺した。


「お前の第一部隊は、いつも型破りで問題ばかり起こす。……会議で説明しろ」

「そうなったら、その時に考えます」


 カイは一度も振り返らなかった。

 ソラは、その広い背中を一歩後ろから見つめていた。


 カイの表情は見えなかった。けれど、その足取りは微塵もブレておらず、いつも通りの確固たる歩き方だった。それだけで、ソラの胸のざわつきはスッと収まった。



    

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