第41話 動きだした笑顔
すみません、39話を抜かして40話投稿しました。
本日39話のせてます。
事件が解決した帰り道、紫苑は一歩引いた位置から、蓮の隣を静かに歩いていた。
「さっき」
短い言葉に、蓮が「ん?」と顔を向ける。
「笑顔、戻ってたぞ」
「え、どこで?」
「街の人たちが正気を取り戻して、起き上がった時だ」
蓮は少し意外そうな顔をして、数歩、無言で歩いた。
「……そうだっけ」
「そうだ。さっきまでお前が浮かべていた、笑い方とは、全く違っていた」
「違ったか」
「違った」
「どう違ってたんだよ」
紫苑は前を向いたまま、淡々と言った。
「止まってなかった」
「は?」
「説明は難しい」
「おい」
「だが」
紫苑は少し考えてから続けた。
「今日のお前は、笑っていた」
「今までは?」
「笑顔だった」
蓮は数秒黙ったあと、
「……それ結構刺さるな」
と苦笑した。
「なんか、今になって急に恥ずかしいな」
「何が?」
「『助けてくれ』なんて言ったの」
紫苑は少し黙った。
「……そうだろうな」
「お前それ、慰めてんの?」
「理解はできる」
蓮はしばらく呆気に取られたように紫苑の横顔を見ていたが――やがて、ふっと吹き出すように笑った。
「そっか。お前も『完璧』やめたばっかだもんな」
「……余計な一言だ」
紫苑が少しむっとしたように歩調を早める。
蓮はそれを追いかけるように、今度は本当に楽しそうに、声を上げて笑った。
そこで、ソラはふと疑問に思ったことを口にした。
「……あの、カイさん」
「うん」
「シノさんの空間魔法を使えば……安全に封じることもできたんじゃないですか?」
カイが、前髪の隙間からフッと悪戯っぽく笑った。
「できたな。簡単に」
「じゃあ、なんで……!?」
「お前が、自分から行きたそうにしてたからだ」
「え、それだけですか……!?」
「それだけ」
「性格わる」
横から日和がつぶやく
ソラは完全に予想外の返答に、その場で少し固まった。
「えええええええっ!?!?」
「実際に怪我をしたのは、お前自身が『それでも行く』と決めて進んだ結果だろ」カイが淡々と言う。
「でも、危ないなら止めてくれてもよかったんじゃ……!」
「止めたら止めたで、お前、あの時何も出来なかったって、一生ウジウジ後悔してただろ」
「う……っ、」
ソラは完全に言葉に詰まった。
「ソラ 絶対後悔する‥」日和もうなづく
「ちょっと待って、カイ。お前、その選択肢があるの分かってて、わざと黙って俺の暴走を見てたわけ?」
「うん」
「ひどくない!?」
「結果的に、お前の雷とソラの能力が合わさって大団円だ。結果オーライだろ」
「よくない! ……まあ、結果的にはよかったけどさぁ!」
二人が揉めていると、少し離れた安全圏から、師乃がモニターの数値を淡々と確認しながら静かに声をあげた。
「ちなみに、私もその解決策には気づいていましたが」
「師乃さんまで!?」
ソラが裏返った声をあげる。
「あの状況において、ソラさんが自らの意思で一歩を踏み出すべきだと、私も総合的に判断しましたので」
「人の人生の重大な一歩を、裏で勝手に判断すなーーーーっっ!!」
蓮の全力のツッコミと絶叫が、静まり返った通りに大音量で響き渡った。
侵食から目覚めたばかりの近所の串カツ屋の店主や、通行人の街の人たちが、何事かと一斉にきょとんとした目で蓮たちを振り返り、見つめている。
「あ……、」
蓮はハッとして、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
でも、その隙間から覗く表情は、以前のような笑顔ではなかった。
照れくさそうに、そして心底楽しそうに、彼は小さく笑っていた。
◇
その夜、本部の自室で、ソラは自分の右手に巻かれた白い包帯をじっと見つめていた。
さくらに優しく巻いてもらった包帯が、夜の明かりに白く浮かび上がっている。
ジクジクと火傷の痛みはあった。けれど、不思議と後悔はなかった。
『助けてくれ』
蓮が必死に絞り出したあの声が、まだ耳の奥に残っている。
ソラは包帯を見て、少しだけ嬉しそうに笑った。
「今日は、倒れなかった……」
傷は残った。
痛みもある。
けれど、不思議と後悔はなかった。
自分の中にあった何かが、少しだけ、理解できたような気がした。




