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Boundary  作者: 楓シロ
30/36

第30話  新人

 第一部隊のフロアに足を踏み入れると、そこにはすでに全員が集まっていた。


「お、来た来た! 噂のミスターかき氷じゃん!」


 蓮がソファーから身を乗り出して、いつも通りの軽い調子で手を振る。


「……だから、その不名誉な呼び方は、」

「却下ー!」

「誰もあなたに却下を決める権限はないはずだ……」


 日和が膝の上にノアを乗せたまま、じっと紫苑を見つめた。

「……来た」

「はい。今日からお世話になります、日和先輩」

「よかったクマ。これで第一部隊の平均顔面偏差値がまた上がったクマ」


 ノアが勝手に喋る。日和は相変わらず無表情だったが、ほんの少しだけ、嬉しそうにノアの身体を優しく揺らした。


 師乃がモニターから視線を上げ、小さく微笑む。

「よろしくお願いします、紫苑さん。あなたの精密な氷の能力、今後の戦術シミュレーションに大いに役立ちます」

「……全力を尽くします」


 そして、ソラが紫苑の目の前まで歩み寄ってきた。満面の笑みだった。


「紫苑さん。本当に、嬉しいです!」

「別に……大騒ぎするようなことじゃない」

「嬉しいんです!」


 紫苑は少しだけ気まずそうに視線を逸らし、小さく呟いた。


「……言っておくが、俺に過度な期待をしても無駄だからな」

「かき氷食べ放題になるからいいんだよ!」


 蓮が嬉しそうに言う。

日和と召喚獣たちが小さな声で「かっき氷、かっき氷」と歌っている。


 紫苑はふと、窓の外の暮れなずむ街並みを見つめた。

 あの静かな廊下の端で、九条はまだ立っているだろうか、と。

 もう確かめることはしなかった。けれど、紫苑の胸の中には、あの大理石のような厳しくも温かい背中が、確かに刻まれていた。

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