第30話 新人
第一部隊のフロアに足を踏み入れると、そこにはすでに全員が集まっていた。
「お、来た来た! 噂のミスターかき氷じゃん!」
蓮がソファーから身を乗り出して、いつも通りの軽い調子で手を振る。
「……だから、その不名誉な呼び方は、」
「却下ー!」
「誰もあなたに却下を決める権限はないはずだ……」
日和が膝の上にノアを乗せたまま、じっと紫苑を見つめた。
「……来た」
「はい。今日からお世話になります、日和先輩」
「よかったクマ。これで第一部隊の平均顔面偏差値がまた上がったクマ」
ノアが勝手に喋る。日和は相変わらず無表情だったが、ほんの少しだけ、嬉しそうにノアの身体を優しく揺らした。
師乃がモニターから視線を上げ、小さく微笑む。
「よろしくお願いします、紫苑さん。あなたの精密な氷の能力、今後の戦術シミュレーションに大いに役立ちます」
「……全力を尽くします」
そして、ソラが紫苑の目の前まで歩み寄ってきた。満面の笑みだった。
「紫苑さん。本当に、嬉しいです!」
「別に……大騒ぎするようなことじゃない」
「嬉しいんです!」
紫苑は少しだけ気まずそうに視線を逸らし、小さく呟いた。
「……言っておくが、俺に過度な期待をしても無駄だからな」
「かき氷食べ放題になるからいいんだよ!」
蓮が嬉しそうに言う。
日和と召喚獣たちが小さな声で「かっき氷、かっき氷」と歌っている。
紫苑はふと、窓の外の暮れなずむ街並みを見つめた。
あの静かな廊下の端で、九条はまだ立っているだろうか、と。
もう確かめることはしなかった。けれど、紫苑の胸の中には、あの大理石のような厳しくも温かい背中が、確かに刻まれていた。




