第23話 正論の刃
ズズゥゥンッ! と、廃棄区域の中心部でひときわ大きな爆発が起きた。
大型機械の暴走による爆風。熱波が押し寄せ、民間人たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
その混乱の中、一人の男性が瓦礫の影で激しく顔を歪めていた。足を挫いたらしく、立ち上がれないようだ。
近くにいた第二部隊の隊員が、足早に近づく。
「立てますか」
「す、すまない、足が動かなくて……」
「立てないなら担ぎます。その袋は置いていってください。邪魔です」
「これだけは、これだけは駄目だ!」
男は必死に泥まみれの布袋を抱きしめた。「家族の写真が入ってるんだ……これしかないんだ!」
その瞬間、隊員の瞳から完全に光が消えた。
「――そんな下らないものを持ってくるから、動けなくなるんです」
男が、息を呑んで固まる。
「立ち入り禁止区域だと知っていて入ったのは、あなたの判断だ。こうなるリスクは分かっていたはずでしょう。ルールを守らない非合理的な人間のせいで、私たちは命の危険に晒されている。その自覚はありますか?」
「それは、ここでしか手に入らない部品が……」
「 あなたたちが規律を破るから、私たちの仕事が無駄に増えるんだ」
男の目が、純粋な恐怖から、深い絶望と傷心へと変わっていく。
助けに来てくれたはずのヒーローに、冷酷に、正論で裁かれているのだ。
周囲の住民たちも足を止め、唖然としてその光景を見つめていた。避難現場の空気が、急速に凍りついていく。
「――やめろ」
紫苑が一歩前に出、隊員の腕を掴んだ。
「……紫苑? なんだよ」
「その人は被害者だ。それ以上の言葉は不要だ」
「ルール違反をした犯罪者だろ。俺は正しいことを言っている」
「関係ない。今の俺たちの仕事は、目の前の人間を五体満足で帰すことだけだ」
隊員は紫苑の手を乱暴に振り払い、不気味な嘲笑を浮かべた。
「お前は本当に甘いな、紫苑。だから第一部隊のサボり魔どもに気に入られるんだよ。出来損ない同士、お似合いだな」
紫苑の頭の中で、チリ、と何かが弾けた。
見渡せば、別の場所でも同じことが起きていた。「指示に従わないお前たちが悪い」「被害者面をするな」「ルールを守れ」――隊員たちが住民を怒鳴りつけ、追い詰めている。
「やめろ! お前たち、何をしているんだ!」
九条が血相を変えて割って入る。
「九条さん、この人たちは規律を乱して――」
「今すぐ口を閉じろ!」
「……なんでですか? 俺たちは、九条さんがいつも言っている通り、規律を正そうとしてるだけです。正しくあろうとしてるだけなのに!」
九条の身体が、激しく強張った。
自分が信じ、部下に言い続けてきた「正しさ」という名の刃が、今、形を変えて民間人を、そして自分を切り刻んでいる。
「――チッ。最悪の空気だな」
冷たい風と共に、第一部隊が到着した。
蓮は状況を一瞥し、いつもの笑顔を完全に消して目を細める。日和はノアを痛いほど強く抱きしめ、師乃は無言のまま超高速でモニターの波形を分析し始めた。ソラは今にも住民の元へ駆け出そうと足を踏み出している。
そしてカイは、冷徹な目で第二部隊の面々を見据えていた。
そこへ、背後の重機を全て片付けたモモが、額の汗を拭いながら合流する。
「こっちは一通り沈黙させたわよ! ……って、ちょっと何よこの地獄絵図。何が起きてるの?」
「模造コアだ」
カイが短く言った。
ソラが暴走している第二部隊員の一人を押さえつけ、師乃がその身体を端末でスキャンする。だが、コアの反応はない。
「……これまでのような外部装着型ではありません。体内摂取型の可能性があります」師乃が告げる。
「タチが悪ぃな」
カイは即座にモモを振り返った。
「モモ、外周の完全封鎖を頼む。これ以上一般人を入れて混ぜるな。こっちがややこしくなる」
「任せなさい」モモが即座に重力を展開する。
「中はあんたたち第一がやりなさいよ!」
「ああ」
モモが再び前線へと走り出す。
「さぁて、イライラするしもう一暴れさせてもらうわよ!」
「モモ、また振られたな」
カイがその背中に声をかける。
「違うわよ! 戦略的撤退!! 」ちょっと夜中に寝たか確認のメッセージを送ったくらいで『重い』とかぬかす男なんて、こっちから願い下げよ!!」
「30通送ったんですよね」
凪が間髪いれずにツッコむ。
「30通はホラーだな」
モモは爆音と共に跳んでいった。




