表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Boundary  作者: 楓シロ
2/14

第2話 大人たちの会議

 最初に見えたのは、白い天上。

 目が覚めた瞬間、「つん」と鼻を突く消毒液のにおい。

…体が重い。思考を巡らせようとするだけで、目の奥がめちゃくちゃ痛い。


「……っ」


 ソラはゆっくりと上体を起こそうとして、すぐにやめた。

ほんの少し頭を動かしただけで、世界がぐにゃりと激しく揺れたからだ。


「あ、気がつきましたか。無理に動いちゃダメですよ」


 すぐ横から、落ち着いた、それでいてどこかホッとしたような女性の声が聞こえる。

 視線を向けると、白衣を着て、黒髪を後ろで軽く束ねた女性が心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「私は中城さくら。ここの医療担当です。気分はどう? 」


 さくらはベッドの脇に立ち、ソラのバイタルを確認し始めた。 

「どこかひどく痛むところはある?」


「……ここ、どこ、ですか……」

「政府の特別医療施設ですよ。あなた、昨日、梅田の地下通路で倒れたの。覚えていますか?」


昨日……。

 その言葉を引き金に、頭がぐわんとなって、記憶が頭の中に溢れ出してきた。


廃墟のような通路。追い詰めてくる黒い影。不気味に脈打つ『コア』。

そして――カイと呼ばれていた男の背中と、あの世界を染め上げた白い光。


「……う、頭が……っ」


「頭痛いよね。神経系に、かなり強烈な負荷がかかったのよ


「過負荷……?」


「ええ。『能力』が初めて発現した反動だと思うわ。そのせいで体に負担がかかったのね」


「のう…りょく……?」


 一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。

能力。それはテレビでしか聞いたことのない、一部の人間だけが持つ特別な力のこと?


「でも、僕、今までそんな力なんて……一度も……」


「家族に能力を持つ人は誰もいなかったの?」


「はい、いませんでした」


「うーーん、まず先に、ご家族に連絡しましょうか」


「僕…一年前に両親を亡くしてるんです。そこから1人です」


「……そうだったのね」


さくらさんが、返事に困ったように言葉を詰まらせる。

 その姿を見ると、ますます不安になってくる。


「僕、どうなるんですか……?」


「今ね、会議してるみたいだから。もうちょっと待ってね」


「……」


 自分が今後どうなるのか、全くわからない。

嫌な考えばかりが頭をよぎるし、不安に押しつぶされそうになる。

指先の震えが止まらなかった。


  ◇


 怒号が、本部の会議室に響き渡っていた。


「――説明を。説明を要求しているんだ、カイ隊長!!」


 バン!!! と激しく机が叩かれる。

 長机の向こう側で、分厚い始末書と請求書の束を両手で震わせながら、能力管理局長の醍醐だいごが般若のような顔でカイを睨みつけていた。


 対する長机のこちら側。

 相変わらず目が半分閉じたままのカイが、やる気なさそうに頬杖をついて座っている。その隣では、師乃が淡々とキーボードを叩いていた。


「今回の梅田地下コア回収任務! 成果は文句なしだ! ……だがなぁ!! なぜ突入経路が直進なんだ!!」


「……あ?」

 カイが、面倒くさそうに片目だけを開けた。

「最短ルートだった」


「最短ルートだからって、床や壁をぶち抜いて突入する馬鹿がどこにいる!!」

 醍醐の額に青筋が浮かぶ。

「おかげでどれだけウチの部署にクレームが来たと思っているんだ! この修理費の桁を見ろ、桁を!!」


 ガシャァン! と目の前に叩きつけられた請求書を、カイは視線だけで一瞥し、すぐに師乃へ横流しにする。


「師乃、処理しとけ」


「無理です、隊長」

 返ってきたのは、冷静な一言。

「第一部隊の今月の消耗品予算は、先週あなたが訓練スペースの壁を破壊した時点で底を突いています。今回は醍醐さんの管轄区域での器物破損ですので、醍醐さんの部署の予備費から引いてもらうよう、今、申請書のデータを改ざん……いえ、作成しているところです」


「お前ら、いい加減にしろよ!?」

 醍醐が今度こそ頭を抱えて怒鳴った。


「……もういい」

醍醐が深く吐息をつき、冷徹な目を向けた。

「それより、少年の件だ。遺伝記録なし、能力種別不明。早急に、特殊能力者更生施設で保護すべきだ」


「施設送り?保護って名目の監禁だろ」

カイが鼻で笑う。醍醐の眉がぴくりと跳ねた。


「カイ。君も能力者なら、制御不能な力がどれほど危険か理解しているはずだ」


「あの子は、俺たちを助けようとした。その結果、能力が出た。それだけだ」


「だから厄介なのだ!」

醍醐の声が、初めて荒らげられた。

「本人の意志と無関係に発動する出力、目覚めた理由も不明。これほど不確定要素が揃っていて、野放しにしろというのか」


 カイは沈黙を返した。

言い返さないのは珍しい。隣にいた師乃が、チラッとカイの横顔を覗き込む


 その時、コツ、コツと杖をつく音が響いた。


壁際にいた老人が、ゆっくりと光の中に歩み寄る。白いローブに、深い皺。だがその白い瞳だけは、深淵を覗くような鋭さを失っていない。


「賢者様……」

醍醐が慌てて立ち上がる。政府の顧問でありながら、その実体は誰も知らない。だが、この老人の言葉を無視できる者はこの国にはいなかった。


「カイ、一つ聞かせてくれ」

老人――賢者が、穏やかに問いかける。

「あの場で感じた少年の力。それは、どのようなものだったかの」


「……援助系、だと思います。攻撃じゃない。俺たちの力が、底から押し上げられるような感覚でした」


師乃も頷き、言葉を添えた。

「そうですね。温かくて、背中をぐいっと押されるような」


「ふむ」

老人は小さく笑った。

「攻撃でも、ましてや破壊でもなく、援助か。そして本人は、無意識にそれを放ったと」


老人は醍醐を振り返った。

「自分に何が起きたかも分からぬ子を、冷たい施設に閉じ込めるのか。それは教育ではないのう」


「しかし、危険です……」


「危険だからじゃ」

 賢者はあっさりと言った。

「敵はすでに動いている。政府が少年を『捕らえた』と世間に知られれば、格好の攻撃材料になる。少年を絶望させ、敵側に引き込む隙を与えるだけだ」


 重い沈黙が会議室を支配する。

「……では、どうしろと」


「カイに預けてみてはどうかの」


 部屋の空気が凍った。


「……はあ?」

カイが初めて、椅子から身を乗り出した。

「俺に? 冗談だろ」

「接触したのは君が最初だしのぅ。力の感触も、あの子の眼差しも知っている」

賢者はカイの目を見つめた。

「施設という『箱』より、人間の『側』にいる方がいいじゃろ?しかも最強の能力者の横なら安心じゃ」


「……いや、ちょっと待て。俺はそういう教育係は向いてないぞ」


「嫌か?」


「向いてないって言ってる」


賢者は静かに笑う。

「断るかの?」


「んな選択権があるのかよ?」


 醍醐は長い息をついた。疲れた、という顔だった。

「……賢者殿がそう言うなら、私も強くは反対できない」

 言いながら、明らかに納得はしていない顔だ。

「ただし条件がある。完全に野放しにはせんぞ。少年には、諜報部の御影みかげを張り付かせる。動向は逐一報告、能力が暴走した場合は即阻止だ。いいな」


 壁際で杖をつく賢者の影に、もう一人、微動だにせず戦況を見つめる男がいた。

その男――御影が、醍醐の言葉に無言で深く頷く。


 醍醐がじろりとカイを睨む。

「……本当にわかっているのか」

「うあーい」

「その態度っ――」


「他に何かありますか」

 カイは醍醐を無視して賢者に話しかけた。醍醐の部下たちがまた視線を逸らす。


 老人はおかしそうに笑った。

「いや、ない。行きなさい」



 廊下に出ると、しばらくの間、乾いた靴音だけが響いた。


「珍しいですね」


「ナニが?」


「引き受けるとは思いませんでした」

カイは面倒くさそうに頭をかきながら 

「押し付けられただけだ」


「断れたはずだよ。君ならね」


「……」


窓の外は、今にもこぼれそうな曇天だ。


「・・あの力、実際どうでした?」

「おもしろい」

「へぇ。」

師乃がメガネの縁を押し上げ、目を細める。


窓ガラスに映るカイの顔が

深く考え込んでいるようだった。



「ふうっ」

 数日間のいろんな検査を終えて、やっと病室に戻ってきて、ゴロンと寝転ぶ。

「お疲れ様、ではゆっくり休んでね」


 その時、バンッとドアが勢いよく開いて僕はビクッと肩を跳ね上げた。


 入ってきたのは、あの助けてくれたカイと呼ばれていた人だ。部屋の空気が一瞬で引き締まるような、妙な存在感がある。


「カイさん」

 さくらが困り顔になった。

「静かにしてくださいね」


 カイは気にした様子もなくベッドの横に立ち、ソラを見下ろした。

「体は大丈夫なのか?」


「検査は終了しましたよ。やはり、反動のようですね」


 その時、もう一人男の人が入ってくる。

 あの時、一緒にいたメガネの人だ!


「起きましたか。私は時量師乃です。こちらはうちの隊長の伊那瀬海斗」


「状況を説明しますね」

 さくらが椅子を引いて座り、師乃がモニターを操作する。カイは腕を組んで壁際に寄りかかった。


「まず、あなたがいた場所には『旧AIコア』の残骸がありました。100年前の戦争で失われたはずの技術です。」


「旧…AI?……教科書に載ってた?」


「それに触れた直後、あなたの周囲で異常な反応が発生しました」


「僕、なにも…」

言いかけて止まる。あまりよく思い出せない。

ただ持った時の感覚は残ってる。


 さくらが、震えるソラの手元にコップを差し出した。

「一回水を飲もうか。一気にびっくりしちゃっうよね」


 冷たい…少しだけ、思考がもどる。

「僕、何をしたんですか」


その問いに、一瞬だけ間が空く。


「現時点では不明です」

「ただ、一つだけ」

モニターにデータが映る。

「その場にいた人間の能力出力が、一時的に上昇していました」


カイは壁にもたれたまま言う。


「要するに、他人の能力の底上げだな」


「でも僕、能力なんて」


「今まで無かった?」


「はい」


 数秒の沈黙。

 師乃とカイが一瞬だけ視線を交わす。

「一般的に能力は遺伝します」

 師乃が淡々と言う。

「例外はこの100年確認されていません」

 

「つまりあなたは、“例外”の可能性があります」


 頭が、追いつかない。

「例外」「能力」なんで?

 意味がわからない。


「どう言うことですか…?」


カイが短く言う。

「とにかく面倒ってことだ」


「それって……やばいんですか」


「政府は、イレギュラーを何より嫌う」 


 やばいとは言われてないけど

よろしくはないと言う事だけはわかった。

 ソラはしばらく黙っていた。


「……じゃあ、僕、どうなるんですか」


 師乃がメガネの縁を押しながら

「当面は保護観察です」


「保護か‥んさつ?」


「行動記録や能力経過の確認ですね」


「要するに監視だ」

 顔がひきつる。


「その役目を、カイが担当する事になりました」


「えっ1番向いてないですか?カイさんがそれを引き受けたんですか?」

さくらがびっくりする。


「クソジジイの命令な」


「あーそれで‥」

 さくらが納得したように息をつく。

 

「・・僕は危ないんですか?」


 カイは、わずかだけ間を置いた。

「さあな。まだわからん」


「カイさん、そこはオブラートにつつめません?」


「嘘ついても、仕方ないだろ」

 カイはまた腕を組み、窓の外を見つめた。


 何が起きたのかわからない。自分のことなのに、勝手に色々決まっていく、この先どうなるんだろう。実験とかされるんだろうか。


不安で胸が押しつぶされそうになったその時、カイが壁から背中を離した。


「早速、第一部隊に移ってもらうぞ」

カイが立ち上がってそういった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ