第17話 模造コア工場
最奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、ソラは生理的な嫌悪感で肌が泡立つのを感じた。
ツンと鼻を突く、薬品と焦げたプラスチックの匂い。
モニター脇には、途中で投げ出されたままのマグカップが置かれていた。
床には引きちぎられたコード類が散乱し、大型サーバーが不気味な重低音を響かせて唸っている。壁一面のガラスケースの向こうには、緑色の培養液が満たされた不気味なカプセルがいくつも並んでいた。
敵の姿はない。しかし、この部屋全体が「狂気」の残骸そのものだった。
「師乃、データを抜け」
カイの指示に、師乃が音もなくメインのデータ端末へと近づく。その白い指先が素早くキーボードを叩くと、部屋の中央にあるモニターに、緑色の断片的な文字の羅列が浮かび上がった。
「……『感情干渉型』『劣等感反応』『抑圧解放による行動誘発』……」
師乃が淡々と読み上げる。
「模造コアの設計資料です。これは単なる洗脳ではありません」
モニターに、脳波グラフのようなものが浮かび上がる。
「人間の中に元々ある感情を、無理やり増幅している。怒り、不安、劣等感……そういう“抑え込んでいるもの”を暴走させる仕組みです」
「人の心のブレーキを壊すってことか」
九条が苦々しく呟く。
「はい。特に、普段から感情を強く抑圧している人間ほど、一気に呑み込まれやすく、反応も強いようですね」
「人間の心の『隙間』を突くわけか……悪趣味な」
九条が、嫌悪感を隠そうともせずに顔を顰める。
その会話を、紫苑は少し離れた場所で、ただ無表情に聞いていた。
「……っ?」
無意識に、自分の胸元を強く掴んでいた。




