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Boundary  作者: 楓シロ
135/140

第135話 最深部崩壊

 それは、何もかもを吹き飛ばす暴力的な爆発ではなかった。静かに、しかし確実に世界を塗り替えていく光の奔流だった。


 バチバチと音を立てて、壁や天井を走っていた発光ケーブルが、一本、また一本と光を失って消えていく。空間の明かりが、一つずつ静かに落ちていく。

 マザーの停止に伴い、この最深部そのものの維持システムが崩壊を始めていた。


「逃げろ!」

 背後から、賢者様の鋭い声が響いた。

「全員、今すぐここから逃げるのじゃ!」


「ソラ、走れ!」

 紫苑がソラの腕を引いた。

「クソ、保たねえ! 急げ!」

 御影が叫ぶ。


 ソラは走り出そうとした。

 けれど、視界の端に映る賢者様の姿に、どうしても足が止まってしまう。


 賢者様は、静かに腰を下ろしていた。

 激しく揺れる床の上で、逃げようとする素振りさえ見せない。まるで、マザーと運命を共にするかのように。


 ――帰るつもりが、ないんだ。


 その瞬間、天井から巨大な瓦礫が落下した。

 轟音とともに、賢者様の姿が見えなくなった。


 ――ダメだ。置いていけない……!


 ソラは紫苑の手を振り払おうとした。

「ソラ、早くしないと生き埋めになるぞ!」

「でも、賢者様が……っ!」


 ガガガガガッ!!


 地鳴りのような轟音が、最深部に鳴り響いた。

 建物全体が激しく跳ね上がった。

 次の瞬間、足元の床が大きく傾いたかと思えば、

 巨大なコンクリート塊が、ソラたちの目の前に次々と落下してくる。

 もはや一歩も進めない。

 走って逃げるルートが、完全に瓦礫で塞がれてしまった。


 賢者様を置いていけない。でも、もうどこへも逃げられない。

 絶望がソラたちの脳裏をよぎった、その瞬間――。


 ――衝撃は、上から来た。


 バリバリバリガガガガッ……!!!


 頭上で、銃声が響いた。

 次の瞬間、天井のコンクリートが派手に割れて砕け散る。

 だが、瓦礫は落ちてこなかった。

 土砂も、鉄骨も、砕けたコンクリートも。

 すべてが天井に開いた穴へ向かって、逆に吸い上げられていく。


「何が起きてる……!?」

 ソラは思わず頭上を見上げた。


 崩落する天井の穴の向こうから、空間全体に響き渡る、あまりにも聞き馴染みのある豪快な怒鳴り声が降ってきた。


「――全員、どこでもいいから、今すぐ何かに掴まりな!!」



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