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Boundary  作者: 楓シロ
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第130話 命のリレー②

 「みんなで一緒に帰るんだから!」


 日和は残された力を振り絞り、両手に渾身の力を込めると、両手が、燃えるような紅い光を放った。

 それに応えるように、消えかけていたアカルヒメが再びその姿を現す。 

力をかなり使ったからか、輪郭は薄い。

けれど、その瞳には、日和と同じ決して退かない意志が宿っていた。


 機械が日和の眉間をめがけて、最期の超高速の一撃を放ってきた。

 アカルヒメが両手を掲げる。


 ――ガギィィィィィン!!!


 全ての威力が、数倍の威力となって機械へ叩き返された。

 完璧なまでのカウンター。超高速を誇っていた機械が、初めて制御を失って派手に後退し、完璧なバランスが大きく乱れた。


その衝撃でノアの拘束が解け、ノアの巨体がぐらりと揺れ、そのまま床へ崩れ落ちた。


「――蓮!!」


  日和の鋭い声が飛ぶ。


 だが、蓮はもうすでに動いていた。


「おおおおおおっ!!」


 両手に溜め込んだプラズマの出力を、極限まで絞り込み、細くする。


 みんなが繋いだ、ほんの数ミリの隙間。


 ――あとは、自分の役目だ。


 狙う場所は、最初から一つしかない。


「これで……終わりだァァッ!!」


 放たれた極細のプラズマが、機械の首の付け根――剥き出しになった回路の奥深くへ突き刺さった。


 バチチチチ、ドゥクゥン……!!


 内部から超硬質のフレームがドロドロに溶けていく。

 激しい火花を散らしながら、機械はガクガクと不快に痙攣し――やがて、顔面の一本の赤いスリット光が、完全に消灯した。


 ドスン……


 細身の鉄屑が床へ倒れ込み、今度こそ完全に沈黙した。


 蓮が肩で激しく息をしながら、自身の熱を持った両手を見つめる。


「……終わった……のか?」


 その言葉が終わるより早く、日和はボロボロになった3匹の元へと這うようにして駆け寄った。

 巨大化が解け、いつもの小さな姿に戻ったノアが、日和の目の前で力なく横たわっていた。

 体中が裂け目だらけで、あちこちから白い綿が飛び出している。

 日和は震える手で、ノアをそっと両手で抱き上げた。


「ノア……」

「……日和、クマ……」

 その声は、消え入りそうなほど小さかった。


「痛い……? 痛いよね……っ」

「ノアは、ぬいぐるみだから……痛くないクマ。でも……」

「でも……なに?」

「日和が……泣いてるクマ……」


 言われて初めて、日和は自分の頬を触った。

 指先が、温かい涙で濡れていた。自分が泣いていることに、今言われるまで全く気づいていなかった。


「なおる、クマ……?」

 ノアが、心配そうに小さなガラスの目で日和を見上げる。


「直す」

 日和は涙を拭いもせず、強く、確固たる声で言った。

「直すよ、絶対に直すから」

「よかった、クマ……」

 ノアが安心して、静かに目を閉じた。


 日和は次に、壁際で倒れているクロエの元へ寄った。

 身体が不自然に歪み、片方の耳を留めていた縫い糸がほつれ、今にも取れそうになっている


「クロエ……」

「……なんニャ」

 クロエが億劫そうに、片目だけを開けて日和を見た。

「泣くなニャ。みっともないニャ……」

「みっともなくない……っ」

「思いっきり泣いてるじゃないニャ……」

「だって、クロエたちが、あんなに頑張ってくれたから……」


 クロエはふいっと気まずそうに顔を背けた。

「……アタシたちは、当然のことをしただけニャ」

 ぶっきらぼうなその声も、いつもよりずっと細く、弱々しかった。


 日和は、床で横たわるアウルをそっと両手で掬い上げた。

 美しい羽が不自然に折れ、いつもおしゃべりなアウルが、ピクリとも動かない。

日和が壊れ物を扱うように優しく胸に抱きしめると、アウルはゆっくりと片目を開けた。


 何も言わなかったけれど、その瞳は、ただまっすぐに日和の無事を確認するように見つめていた。


 日和は3匹をそっと抱き抱えた。

 裂け目だらけのノアを。

 耳の取れかけたクロエを。

 羽の折れたアウルを。

 こぼれ落ちそうな綿を、ひとつひとつ大切に閉じ込めるように、ぎゅっと胸に抱いた。


「直すから……」

 日和は3匹に聞こえるように、自分自身に言い聞かせるように、小さく、でも強く繰り返した。

「全部、全部、元通りに直すからね……」


 蓮が静かに歩み寄り、日和の隣に腰を下ろした。

かける言葉はみつからなかった。


日和は、もう一度、腕の中の3匹を抱きしめた。


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