第13話 ルンルンが飛ぶ場所
集会室に行くと日和が通信していた。
フロアの隅、窓際の定位置。モニターの向こうに、女性の顔が映っていた。日和と似てる‥お母さんだろうなぁ。
邪魔しないように静かに通り過ぎようとした。でも日和の声が聞こえてきた。
「……街に、行ってみたいところがあって」
珍しいなぁ思った。日和が自分から行きたいと言うのを、あまり聞いたことがなかったから。
モニターの向こうで、お母さんが少し声を上げた。
「えー!街? 危なくない? 今から一人で行くの?」
「一人で」
「やだ心配。誰かと行った方がいいよ。カイさんとか師乃さんとか、後ろについててもらうとか…」
「別に、一人で…」
「日和は可愛いんだから。ママ本当に心配になっちゃう。あ、バーチャルストアでもいいのあるわよ、サイト送ろうか?」
日和の指が一瞬止まった。
「それか、ママが代わりに買ってきてあげようか? 何が欲しいの?」
「……やっぱりいい」
「え? でも行きたいって言ってたじゃない」
「うん、大丈夫。やっぱりやめる」
ぷつん、と通信を切る。
日和はノアを抱え直した。ノアもぎゅっと日和に抱きつく。
「またかニャ」
クロエがぼそっと呟いた。
トバリは黙っていた。
うーーん見ていなかったふりをするべきか。でも。
「日和さん」
こえをかけると日和がゆっくりとこっちを見た。
「俺も、街で行きたいとこあるんですよね。一緒に行きませんか」
日和はしばらくの間、ソラを見ていた。
「……どこ」
「手芸屋さんの近くに、気になってる店があって」
日和の目が、少しだけ動いた。
「……手芸屋の近く」
「はい。偶然ですけど」
日和はノアを見た。ノアがソラを見た。
「……いくクマ」
日和が小さく頷いた。
◇
街は、ソラには見慣れた賑やかさだったが、日和には異世界のように映っているようだった。
「あそこ…です」
日和が小さく指差したのは、古いレンガ造りの建物の角にある、小さな手芸店だった。
一歩、店内に足を踏み入れた瞬間、日和の纏う空気が変わった。
棚に並んだ布の一枚一枚を、たのしそうに選ぶ。「ルンルン」文字と音符が日和の周りを飛んでるようだ。
「……補修用。あと、新しいのも作りたい」
「何を作るんですか?」
「まだ、わからない。でも……みんなを可愛く飾るの」
自分で選んで、作りたいもの
お会計を済ませる日和の指先は、まだ微かに震えていたけど、
その顔は、ずっと生きて見えた。




