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Boundary  作者: 楓シロ
12/22

第12話  不完全な氷

「……で、なんで俺はこんなことしてるんですか」

ソラは訓練室の床にへたって、肩で息をきらしていた。


 目の前には、小さな金属球。

カイがピンっと指で弾くたび、不規則な軌道で跳ね回る。

「集中切らすな」

カン、と乾いた音が鳴った瞬間。

金属球が急に軌道を変えた。


「うわっ!?」

 反射的に避ける。間髪入れず、背後、さらに真横。

「見てから動くな。来る前を読め」

「無茶ぶりっ!」

「戦闘ではその無理で死ぬんだよ。」

 カイは壁にもたれたまま、淡々としていた。

 

 呼吸。視線。重心。微かな音。

「お前は今、“出す”ことばっか焦ってる。能力は、出せば終わりじゃねぇ」

 球が足元へ転がる。

「暴れた力に、自分が飲まれない方が先だ」


 ソラは床の球を拾い上げ、じっと見つめた。

「……でも僕、そもそも出ないんですけど」

「焦って出るタイプなら、とっくに暴走してる」

 カイの言葉がふと重くなる

「出ない奴は、出た時が厄介なんだよ」


 ソラは金属球を見つめる。

能力がないわけじゃない。そう考えることにしよう。


   ◇


訓練室を出て廊下を曲がった時だった。

半開きになった扉の隙間から、ひやっとした空気が流れてくる.

ソラは何となく足を止めた。


 そこには静かな水面みたいに、氷が広がっていた。

 床を滑るように伸びていく透明な結晶。

「……すご」

 思わず声が漏れた瞬間。


 ぴしっ、と音がしたと思ったら

氷に亀裂が入り次の瞬間、全部砕けた。

「はぁ‥」

 氷の中心にいた青年が、短くため息をつく。、

 男はもう一度手を上げる。

今度はさっきより小さい氷。まるで失敗しない範囲だけ使っているみたいだった。

 それでもとても綺麗だった。


  ◇


 ガコンッ と派手な音を立ててお茶がでてきた。

ベンチに座って天井を見ていると、向こうからさっきの青年が歩いてきた。

 少し青みがかった灰色の髪。どこか人を寄せ付けない空気を纏っている。

(あ、さっきの氷の人だ。)


 僕を一瞬だけ見て、自販機に硬貨を入れる。

ボタンを押したのに、商品が出てこない。

「ふぅ‥」

 青年は諦めたようにそのまま立ち去ろうとした。

「待って、それ中で引っかかってるだけですよ!」

「…いい。別に」

「いやいや、すぐに取れますから!」


 取り出し口に手を突っ込むと、やっぱり缶がひっかかっていて、すぐに落ちてきた。

「はい、どうぞ」

「‥‥ありがとう」


 自販機の前に、少し気まずい沈黙が流れる。

青年は僕の服にあるエンブレムに目を留めた。

「その服は…第一部隊か」

「そうです。新入りです」

「……そう」

 缶を開けるプシュという音。

「さっき、ドア開いてて氷がチラッと見えましたが

凄いかっこよかったです!」


「かっこよくない」

 青年が手元の缶を見た。

「完璧に制御できなければ意味がない」

「えっあんな綺麗だったのに?」

「俺以外のやつは、みんなできてる。

 淡々としていた。怒っているわけじゃなかった。ただ、本当にそう思っているみたいだった。


「中途半端なら、やらない方がいい」

「あんなに、凄いのに…」

「期待したり、されると面倒だから」

「面倒?」

「……できなかった時、残るだろ」


 青年はそう言って歩いて行った。角を曲がって、見えなくなった。


「うーーーーーん」

 ソラはしばらくそこに立っていた。

 崩れたら全部ダメ。

 その言葉が、なんか違うとソラは思った。

 

  ◇


 訓練室へ戻り、さっきの出来事を話す。

「銀髪で、氷の能力の人なんですけど……」

「あー、紫苑か」

 蓮が苦笑した。

「まあ、あいつ色々あるからな」


 その横で、日和がぬいぐるみを抱いたまま小さく口を開く。

「……ちょっと、わかるかも」

ソラが日和を見る。

「何が?」


「やる前に、いろいろ言われるとね」

 静かで、どこか冷えた声だった。

「急に、どうでもよくなるの」


 ソラは少し黙った。蓮も何も言わない。

「……言っても無駄なんだって、なる」


 僕は、まだよくわからなかった。

 でも、あの氷が砕けた時のため息だけは、妙に頭に残った。

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