↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Boundary  作者: 楓シロ
109/140

第109話 遠ざかる背中

 凄まじい風を浴びながら、二人はついに地上へと躍り出た。


 そこは、夜の咲洲――広大なコンテナヤードの片隅だった。


 容赦なく吹き付ける冷たい強風。濃い潮の匂い。

 闇の中に整然と並ぶ無数の巨大なコンテナの向こう側には、黒く静まり返る大阪湾が広がっている。


 だが、ソラの目は、コンテナの隙間を猛スピードで駆け抜けていく人影を捉えていた。


 久世、そして師乃だ。すでに彼らとの距離は、絶望的なほどに離れていた。


「まだ、そこにいる……っ!」


 ソラは痺れる足を叱咤し、さらに地を蹴った。紫苑もまた、氷の粒子を足元に滑らせながらその後を追う。



 だが、地面を踏むたび、港湾の地盤振動が足からソラへと流れ込む。

 コンテナに接近するたび、金属が蓄えた昼間の余熱がソラへと引きずり込まれる。


 走れば走るほど、ソラの身体はエネルギーの過充填で鉛のように重くなり、視界が光で白く染まっていく。


 器が、限界だった。

 もう一歩が、踏み出せない。


 その時、遥か前方を走っていた久世が、ふと足を止め、ゆっくりと振り返った。


 彼は遠くから、身体を光らせて苦しむソラの姿を、じっと見つめた。

そして――ただ、憐れむように、冷酷に笑った。


 久世が再び前を向いた瞬間、彼らの身体は黒いマントの翻りと共に、コンテナヤードの深い暗闇の中へと、煙のように掻き消えた。


「待って……!! 待ってください!!」


 ソラの悲痛な叫びは、冷たい海風にかき消され、誰にも届かなかった。


 消えた。

 気配も、足音も、完全に。


「……う、あ……」


 ソラは走る力を失い、その場にガクリと両膝を突いた。


 しかし、地面に手のひらをつけた瞬間、港湾設備から伝わる微細な振動が、再び身体へと容赦なく流れ込んでくる。


「ソラ! 地面から手を離せ! 中で暴走してるエネルギーを止めろ!」紫苑が駆け寄り、悲鳴のような声を上げる。


 ソラは慌てて手を離し、自分の身体を見つめた。

 皮膚の裏側を、狂暴な光の粒子がのたうち回っている。溢れている。止まらない。このままでは、本当に自分が消し飛んでしまう。 


「どうすれば……どうすればいいの……っ!」


「出せ!」

紫苑がソラの肩を掴み、叫んだ。

「体の中に溜め込むな! どこでもいい、全部外に吐き出せ!」


「出す、って……どこに……」


 ソラは、目の前に広がる漆黒の海――大阪湾を見た。

 無限の容量を持つ、深い闇の器。


「……あああああぁぁぁっっっ!!」


 ソラは海に向かって両手を突き出し、魂を絞り出すように叫んだ。


 次の瞬間、ソラの内側に溜め込まれていた膨大なエネルギーが、行き場を失った濁流のように、一気に海へと吹き出した。


 ドォォォォォン!!!


 凄まじい閃光が大阪湾の海面を真っ白に照らし出し、衝撃波によって巨大な波飛沫が立ち上がる。


 数秒の後。

 エネルギーを完全に吐き出し終えたソラの身体から、光が静かに消えていった。


「はあ……はあ……はあ……っ」


 ソラは激しく息を切らせながら、その場に崩れ落ちた。

ガタガタと震えるその手だけは、カイの刀を離していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。