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Boundary  作者: 楓シロ
108/140

第108話 目覚める力

「追いかけるぞ」


 紫苑の低く鋭い声が、静寂を引き裂いた。


ソラはハッとして振り返った。


「……え」


「まだ見失ってない。追うぞ」


 ソラは閉ざされた防爆扉を見る。

手の中には、カイの刀がある。


 師乃さんが行ってしまった。

カイさんはいない。

何が起きたのかも、まだ何一つわからない。


 それでも――このまま行かせるわけにはいかない。


「……師乃さんに、聞かなきゃ」


「ああ」


「何があったのか……ちゃんと、本人に」


「当然だ。本人の口から聞くまで、納得できるかよ」


 二人は同時に弾かれたように地を蹴った。

 薄暗く、埃の立ち込める地下廊下を、ひたすら前だけを見据えて全力で疾走する。


 だが、走るソラの身体には、明らかな「異変」が起き始めていた。


 身体が、内側から燃えるように熱い。


 自分の意志とは無関係に、世界のすべてが自分の中に流れ込んでくるような、悍ましいほどのエネルギーの横溢。


 バランスを崩しかけ、咄嗟に右手をコンクリートの壁についた、その瞬間だった。 


 バチバチバチッ――!!!


「――っ!?」

「――っ!?」


 壁の内部に走る古いインフラ配線から、莫大な電磁エネルギーが、ソラの手のひらを通じて強制的に体内へと流れ込んできた。


 ソラは悲鳴を上げて手を離す。右腕全体が強烈に痺れ、感覚が麻痺していた。


「ソラ!?」

紫苑が走りながら叫ぶ。


「だ、大丈夫です……!」


「大丈夫なわけあるか! お前、手が光ってるぞ!」


 言われて自分の右手を見ると、皮膚の隙間から青白い光が漏れ、薄く発光していた。


 壁から吸い上げてしまった電気が、ソラの体内で「別の何か」へと激しく変換されている。ソラには、自分の身に何が起きているのか全く理解できなかった。


 けれど、止まるわけにはいかなかった。


 二人は階段に飛び込み、一段飛ばしで狂ったように駆け上がっていく。


 一階、二階、三階――。


 上へ登るたびに、ソラの中で蠢く「何か」がどんどん巨大化していく。


 床を踏みしめるたび、建物の微かな構造振動が足裏から吸い上げられ、ソラの体内に蓄積する。

 頭上のむき出しの配管に触れそうになった瞬間、管内を流れる高圧の水圧エネルギーさえもが、磁石に引き寄せられるようにソラの身体へと歪んで流れ込んできた。


「ソラ、周囲の構造物に触るな!」

紫苑の顔色が変わる。


「わかって、ます……っ!」


「わかってない! お前、いま周りの全エネルギーを無差別に吸い込んでる! 制御できてない!」


 走りながら見るソラの身体は、もはや右手だけでなく、全身の輪郭が眩い光に包まれつつあった。


 壁の電気、床の振動、空気の熱――。

 地下に眠るあらゆるエネルギーが、ソラという一つの器の中で混ざり合い、膨張していく。


 出口がない。

流れ込み続ける力を、ソラはもうソラ自身でも抱えきれなくなり始めていた。


「は、はあ、はあ……っ!」


 前方に、地上へと繋がる最後の勝手口の鉄扉が見えた。


 ソラが鉄扉へ手を伸ばした、その瞬間だった。


キィィィィン――!!!


体内に蓄積していた膨大なエネルギーが、ついに臨界を越えた。


 ソラの全身が、眩い閃光となって爆発的に輝く。


「ソラ、伏せろっ!」


 紫苑が本能的な危機感を察知し、猛スピードで後方へと飛び退いた。


 ドガァァァァァン!!!


 ソラの両手から、行き場を失った膨大なエネルギーが奔流となって炸裂した。


 強固なはずの防爆鉄扉が、まるで紙切れのように一瞬で外側へと吹き飛ばされ、夜空へと舞った。


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