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Boundary  作者: 楓シロ
105/140

第105話 消失

 ソラと紫苑は、瓦礫が散乱し崩れかけた地下通路を、なりふり構わず全力で駆けていた。


 ゴォォォ……

 ゴォォォ……。


 地の底から響き渡る、あの巨大な怪物の呼吸のような重低音が、一歩進むごとに明らかに強くなっていく。

 大気そのものが細かく変調し、ソラの肌をチリチリと刺すように震わせていた。


 胸の奥を冷たい手で掴まれているような、最悪の予感しかしない。


「ソラ、急げっ……!」

 紫苑が前を走るソラの背中に向かって低く叫ぶ。


 ――ドガァァァァァン!!!


 前方から、すべてを圧殺するほどの凄まじい爆音が炸裂した。


 瞬間、地下通路全体が生き物のように激しく縦に揺れ、頭上のひび割れたコンクリート片が容赦なくバラバラと二人の頭上へ降り注ぐ。


「っ……!」


 爆風の余波を受け、ソラが視界を奪われそうになりながらも激しくよろめく。

 だが、止まるわけにはいかなかった。


 いまの爆発は、師乃が向かった、そしてカイがいるはずの深部制御室の方向だ。


 二人は顔を見合わせ、肺が焼けるような呼吸のまま、煙の立ち込める通路の奥へと一気に駆け抜ける。


 最後の角を曲がった、その先にカイの姿が見えた。


「カイさん!」


 ソラが叫んだ。


 ーーその瞬間ーー


 突如として、すべての輪郭を奪い去るような、圧倒的な白い閃光が制御室を呑み込んだ。


「――っ!」


 網膜を焼き焦がすほどの狂暴な光に、ソラは思わず両手で目を覆う。


 電磁場が爆ぜる異音。

 空間そのものが引き裂かれるような、耳障りな高周波。


 一瞬、本当に、一瞬の出来事だった。

 白に塗り潰されていた視界が、ゆっくりと輪郭を取り戻した時。



 そこにいたはずの、カイの姿が消えていた。



代わりに。


師乃だけが、その場に立っていた。


「……え」


 ただ、空間だけが不自然に歪み、陽炎みたいに揺らめいている。


 そして。


 ――カラン。


 静まり返った制御室に、ひどく遅れて乾いた金属音が響いた。


 火花の散る床を、一振りの刀が滑っていく。

 見慣れた漆黒の鞘。

 主を失った刃。


 カイの刀だった。



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