第105話 消失
ソラと紫苑は、瓦礫が散乱し崩れかけた地下通路を、なりふり構わず全力で駆けていた。
ゴォォォ……
ゴォォォ……。
地の底から響き渡る、あの巨大な怪物の呼吸のような重低音が、一歩進むごとに明らかに強くなっていく。
大気そのものが細かく変調し、ソラの肌をチリチリと刺すように震わせていた。
胸の奥を冷たい手で掴まれているような、最悪の予感しかしない。
「ソラ、急げっ……!」
紫苑が前を走るソラの背中に向かって低く叫ぶ。
――ドガァァァァァン!!!
前方から、すべてを圧殺するほどの凄まじい爆音が炸裂した。
瞬間、地下通路全体が生き物のように激しく縦に揺れ、頭上のひび割れたコンクリート片が容赦なくバラバラと二人の頭上へ降り注ぐ。
「っ……!」
爆風の余波を受け、ソラが視界を奪われそうになりながらも激しくよろめく。
だが、止まるわけにはいかなかった。
いまの爆発は、師乃が向かった、そしてカイがいるはずの深部制御室の方向だ。
二人は顔を見合わせ、肺が焼けるような呼吸のまま、煙の立ち込める通路の奥へと一気に駆け抜ける。
最後の角を曲がった、その先にカイの姿が見えた。
「カイさん!」
ソラが叫んだ。
ーーその瞬間ーー
突如として、すべての輪郭を奪い去るような、圧倒的な白い閃光が制御室を呑み込んだ。
「――っ!」
網膜を焼き焦がすほどの狂暴な光に、ソラは思わず両手で目を覆う。
電磁場が爆ぜる異音。
空間そのものが引き裂かれるような、耳障りな高周波。
一瞬、本当に、一瞬の出来事だった。
白に塗り潰されていた視界が、ゆっくりと輪郭を取り戻した時。
そこにいたはずの、カイの姿が消えていた。
代わりに。
師乃だけが、その場に立っていた。
「……え」
ただ、空間だけが不自然に歪み、陽炎みたいに揺らめいている。
そして。
――カラン。
静まり返った制御室に、ひどく遅れて乾いた金属音が響いた。
火花の散る床を、一振りの刀が滑っていく。
見慣れた漆黒の鞘。
主を失った刃。
カイの刀だった。




