第104話 その少し前
場面は変わり、コスモタワー地下の激しい乱戦の最中。
ドゴォォォン! と日和のアカルヒメが敵の突進を跳ね返し、蓮のプラズマが炸裂する喧騒の中。
師乃の耳元で、モニターが鋭い警告音を鳴らした。
ピッ
ピッ
ピッ
それは戦闘の爆鳴に掻き消されてしまうほど、極めて小さな音だった。
モニターを叩く指先が、ぴたりと静止する。
師乃のモニターに表示されたログ。
赤色の警告表示が高速で点滅していた。
【深部制御室 異常出力検知】
【旧AIコア 出力上昇】
【限界値突破】
その脳裏に、前夜、会議室の暗闇で賢者が耳元に寄せて囁いた、あの『一言』が鮮烈に蘇る。
ーー未来というものはな、案外、しぶとい――
師乃の瞳が揺れた。ほんの一瞬だけ。
そして。
彼はログの表示されたモニターを、バチンと閉じた。
「皆さん、私は少し離れます」
その静かすぎる声に、隣で氷の障壁を維持していた紫苑が、怪訝そうに振り返った。
「離れるって……どこに行くんですか、師乃さん。まだ敵の残党が残ってますよ」
「深部制御室に異常が出ています。カイさんとも通信が繋がりません。私が直接、確認してきます」
「一人でですか? 危険すぎます、私も――」
「結構です。前線は維持してください」
師乃は即答した。
「……すぐ戻ります」
師乃はそれだけ言い残すと、紫苑の制止を待たずに踵を返した。
張り詰めた焦燥を隠しきれないほどに、その足取りは速かった。
紫苑は、暗い通路の奥へと消えていく師乃の細い背中を、眉を顰めて見つめていた。
「どうしたんですか、紫苑さん」
隣にいたソラが声をかける。
「いや……師乃さんが」
「師乃さん?」
ソラは、師乃が去っていった通路へと視線を走らせた。
彼の姿はすでに完全に闇の向こうへと見えなくなっている。
「……そういえば、少し前から師乃さん、少し変でしたよね」
「うん。今も変だった」
胸の奥で、冷たい嫌な予感がチリチリと音を立てて疼き始めた。
ここ最近、師乃の様子にはずっと違和感があった。
何かを隠しているように見えた。
「……僕、ちょっと師乃さんの後を追ってみます」
「ちょっ!待てっ。俺も行く!」
ソラは紫苑の声を背中で受けながら、弾かれたように走り出した。
地下から響く重低音が、さっきよりも明らかに大きくなっている。
嫌な予感がした。
取り返しのつかない何かが、もう始まってしまっている気がした。




