12-12
《業火》は、ソフィアに引っ張られる。もはや、どこへ向かっているかもわからない。
気が付くと、開けた場所にいた。そこは、巨大な闘技場だ。
あちらこちらで甲高い声がする。
《業火》は、それを直視できない。座り込み、ソフィアを見上げる。だが、ソフィアは当然というように、子供たちが殴り合うのを見つめている。
「え……?」
《業火》は、ソフィアを見つめ、
「これは……なんだ?」
「私の異能研究、その一部」
ソフィアは、何のことはない、というように言う。
「なんで……」
《業火》は、呆然とつぶやく。
「人がヒトである限り、異能を発現させたいという欲がある。それは潰しても消えない。なら、私がその中心になれば良い」
「何を……何を言ってるか分からない」
世界が歪み、ぐにゃぐにゃと揺れる。色彩が消え、音さえ、白黒になったかのように感じる。
―嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だと言ってくれ、敵をおびき寄せる為の、デコイだよな? ソフィア、お前お決まりの策略なんだよな?そうだと言ってくれよ
「いつもの奇策か? そうだよな?」
《業火》は乾いた笑いを発する。
「違う。私は、本気」
ソフィアは、首を横に振り、
「異能を武器として研究したいという人物がいれば、この研究所に迎え入れ、研究を行わせるようにします」
《業火》は、ふと手を、ソフィアに向ける。それは、異能を発動する際に、照準を合わせる為の仕草。
「お前は……何を言っているんだ?」
《業火》は、涙を流しながらも、呆然と言う。
ソフィアは、下を見ながら、
「ここなら、戦いも半殺しになった時点で止める。それに、食事や睡眠も必ず行わせる。充分、人道的でしょう。薬品の使用だって、何回も検討を重ね―」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
《業火》の声が、コロシアムに響く。
「じゃあ、どんなことを聞きたいの」
《業火》は、呆然とする。何を聞いて良いか分からなかった。ただ、無言でソフィアを見つめていた。
「ここに異能信者を集めれば、飼い殺しにできる。生かさず殺さず、管理する。それの何が悪いの?」
ソフィアの声は、《業火》には届かない。
「この手の組織を何個か作るの。それでね―」
やめろ、と《業火》は、ソフィアを遮り、
「お前が……お前が、異能に取り付かれ、狂気に飲まれない保証がどこにある?」
ソフィアは、答えず、遠くを見るような表情をする。《業火》は、その顔を見つめ、肩を掴み、
「答えろ!」
沈黙がふたりの間に降りる。子供たちの声だけが響く。ふと、ずぶ、と鈍く、湿った音がする。
《業火》の腹部に、にぶく、鋭い痛みが走る。
「え……」
《業火》は、腹部に触れる。腹から血が零れ、どくどくと流れ出ている。額からは脂汗が浮かび、全身から血の気が引いていく。
「な…ぜ」
《業火》が崩れ落ちる。刃物を押さえ、腹から抜けないように固定するので精一杯だった。
「あなたの力が欲しかった」
「欲しかった……俺の……力」
《業火》は、ぼうぜんと言う。血が止まらず、必死に抑え込む。どす黒い感情が臓腑から湧き上がり、世界が真っ黒に塗りつぶされていく。
ハハ……、と《業火》は乾いた笑い声を発する。そして、ソフィアに片手を向ける。
ソフィアが、とっさに伏せる。
《業火》は、異能力を発動。白い光が、ぱっ、と輝く。
―燃えろ、こんなものすべて燃えろ
気が付くと、そこは火の海になっていた。
蒼炎が樹々を喰らうとき、宝石のように、光を乱反射させ、幻想的に輝いた。
まるで空が墜ちて、星とともに青白く燃えているかのような凄絶な光景だった。青い光は、空間を歪ませ、一帯が異界に飲み込まれたかのように見えた。
《業火》は、そのなかをふらふらと歩いている。その顔はやつれ、髪は白くなっていた。腹部から血が流れ、意識は朦朧としていた。
炎が風を巻き起こし、《業火》の髪を揺らす。ふと、《業火》が顔を上げると、山の上の砦が見えた。
―ゆるさない
《業火》の思いを反映するかのように、炎が天高く昇り、唸り声をあげる。世界を飲み込み、焼いていく。
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