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2週間後ー
異能研究を行っている施設を発見したという情報が入った。潰しても潰しても、雑草のように異能を乱用したがる者が現れる。もはや、いたちごっこですらない。永遠に続く、マラソン。
「ソフィア王妃様には報告しますか?」
《業火》の従者で、優秀な諜報員である《影蛇》が聞いてくる。長年を共にした友人であり、相棒だった。
「いや、ソフィア様には伝えない。あえて泳がそう。引き続き潜入を頼む」
否、ソフィアには報告できなかった。最後に話したのは、いつだろうか。王座の上で考え事をし、役人と議論をし、昼夜を問わず働く姿を見て、話しかけられる者はいなかった。いつしか、彼女の淡い金髪は、真っ白になっていた。
それでも、ソフィア様なら、ソフィア様なら、みながそう言った。
新しい異能研究所に、《影蛇》が潜入して数日、連絡が途絶えた。足取りがぷっつりと途絶え、生きているのかもわからなくなった。
おかしい―《業火》の脳裏で、嫌な予感がした。粗雑化が進んでいたはずの、異能研究者たち。彼らの居場所を特定し、監視し続けるなど、朝飯前のはずだ。
―何かがあったのだ?
「王妃様に報告し、全面的な調査に踏み切りましょう」
「そうだな……」
―ソフィアなら、何とかしてくれるはずだ
《業火》は、歯噛みし、ソフィアの元へ向かった。
ソフィアは、王座にいた。眼の下のクマは酷かったが、目の焦点は異常に一点を見ていた。報告を聞いても、妙に冷静な顔をしていた。そして、話を聞き終えると、
「そうだったのか」
ソフィアは、目を細め、頷く。
《業火》は、眉をひそめる。「そうだったのか」とはどういう意味だ?
「来なさい」
ソフィアは、王座から降り、王宮の方へ進む。質素なドレスに身を包んだ姿は、あまりにも小柄で、細く、弱弱しい。
「どこへ行くんです?」
「王宮の近くの森」
「どういうことです? あの森は……」
《業火》は、ソフィアの肩を掴む。あまりにも骨ばった、それでいて柔らかな肩。ソフィアが、女性であることを忘れた訳ではなかったが、あまりにもそれを強く感じさせた。
ハッとし、《業火》は手を離す。
「見せたいものがあるの」
《業火》は、動けずに、その場に立ち止まる。
行きたくなかった。城の近くにある森のなか、そこには堅牢な建物が建てられている。それは、かつて王の異能研究に使われていた建物。
そして、王が捕獲した《不死》を使って非道な実験を行っていた場所。
「大丈夫。行きましょう」
ソフィアは、《業火》の腕を取る。あなたの異能を殺人に使わせない、そう誓ったあの日と同じだった。
森を進むと、建物が見えた。騎士が警備し、物々しい雰囲気に包まれていた。
建物に入り、小さな個室へ案内される。
ソフィアは、久しぶりに《業火》の本名を呼んだ。そして、
「ごめんなさい」
《業火》の目の前には、死体が転がっていた。元の顔が分からないほどに顔は腫れ、性別が分からないほどに、身体は変形していた。だが、従者であり、友人であり、相棒だった《影蛇》だとすぐに分かった。
「どういう……ことだ」
《業火》は、掠れた声で言うことしかできない。
「私の施設に忍び込んだから」
ソフィアは何事もないかのように言う。
「私の……施設」
頭がぐらぐらとし、《業火》は倒れこむ。それをソフィアが受け止める。暖かく、柔らかい身体に包まれる。
ぐわんぐわんぐわん、世界がぐるぐると周り、音が聴こえない。
「ついて来て」
《業火》は、ソフィアに引っ張られる。もはや、どこへ向かっているかもわからない。
気が付くと、開けた場所にいた。そこは、巨大な闘技場だ。
あちらこちらで甲高い声がする。
《業火》は、それを直視できない。座り込み、ソフィアを見上げる。だが、ソフィアは当然というように、子供たちが殺し合うのを見つめている。
「え……?」
《業火》は、ソフィアを見つめ、
「これは……なんだ?」
「私の異能研究、その一部」
ソフィアは、何のことはない、というように言う。
「なんで……」
《業火》は、呆然とつぶやく。
「人がヒトである限り、異能を発現させたいという欲がある。それは潰しても消えない。なら、私がその中心になれば良い」
「何を……何を言ってるか分からない」
世界が歪み、ぐにゃぐにゃと揺れる。色彩が消え、音さえ、白黒になったかのように感じる。
―嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だと言ってくれ、敵をおびき寄せる為の、デコイだよな? ソフィア、お前お決まりの策略なんだよな?そうだと言ってくれよ
「いつもの奇策か? そうだよな?」
《業火》は涙を流しながら、乾いた笑いを発する。
「違う。私は、本気」
ソフィアは、首を横に振り、
「異能を武器として研究したいという人物がいれば、この研究所に迎え入れ、研究を行わせるようにします」
《業火》は、呆然とし、ふと手を、ソフィアに向ける。それは、異能を発動する際に、照準を合わせる為の仕草。
「お前は……何を言っているんだ?」
《業火》は、涙を流しながらも、呆然と言う。
ソフィアは、下を見ながら、
「ここなら、戦いも半殺しになった時点で止める。それに、食事や睡眠も必ず行わせる。充分、人道的でしょう。薬品の使用だって、何回も検討を重ね―」
「そんなことを聞いてるんじゃない!」
《業火》の声が、コロシアムに響く。
「じゃあ、どんなことを聞きたいの」
《業火》は、呆然とする。何を聞いて良いか分からなかった。ただ、無言でソフィアを見つめていた。
「ここに異能信者を集めれば、飼い殺しにできる。生かさず殺さず、管理する。それの何が悪いの?」
ソフィアの声は、《業火》には届かない。
「この手の組織を何個か作るの。それでね―」
やめろ、と《業火》は、ソフィアを遮り、
「お前が……お前が、異能に取り付かれ、狂気に飲まれない保証がどこにある?」
ソフィアは、答えず、遠くを見るような表情をする。《業火》は、その顔を見つめ、肩を掴み、
「答えろ!」
ずぶ、と鈍く、湿った音がする。
《業火》の腹部に、にぶく、鋭い痛みが走る。
「え……」
《業火》は、腹部に触れる。腹から血が零れ、どくどくと流れ出ている。額からは脂汗が浮かび、全身から血の気が引いていく。
「な…ぜ」
《業火》が崩れ落ちる。刃物を押さえ、腹から抜けないように固定するので精一杯だった。
「あなたの力が欲しかった」
「欲しかった……俺の……力」
《業火》は、ぼうぜんと言う。血が止まらず、必死に抑え込む。どす黒い感情が臓腑から湧き上がり、世界が真っ黒に塗りつぶされていく。
ハハ……、と《業火》は乾いた笑い声を発する。そして、ソフィアに片手を向ける。
ソフィアが、とっさに伏せる。
《業火》は、異能力を発動。白い光が、ぱっ、と輝く。
―燃えろ、こんなものすべて燃えろ
読んで頂きありがとうございます。




