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10-12

 雨音が、王宮内(おうきゅうない)に響(ひび)いていた。ときおり遠雷(えんらい)も聞こえる。ほの暗い王宮を、雷が白く照らす。


 稽古場(けいこば)からもどったソフィアは、服も乾かさず歩いていた。その脳裏に、先ほどの答えが浮かんでは消えていた。


 弱さは敵だ。だが、それを受け入れるのだ。友は近くに置け、敵はもっと近くに置け、それこそ血肉を共有するほどに。


 それが意味することはつまり―


 ソフィアは、その答えに動揺していた。心臓が鳴り、目が痙攣(けいれん)した。世界がぐるぐると回転し、雨音さえ聞こえなかった。


 視界がぐにゃりとゆがみ、異様な姿を描く。ソフィアは真っすぐに歩けず、壁に倒れこむ。


 あ(・)ん(・)な(・)答(・)え(・)が(・)許(・)さ(・)れ(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)。(・)あ(・)な(・)た(・)に(・)受(・)け(・)入(・)れ(・)て(・)も(・)ら(・)え(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)。(・)


 ソフィアは、うずくまり膝(ひざ)に顔を押し付ける。


「誰か……助けて」


 誰かが来る音がし、ソフィアは慌てて立ち上がる。とっさに涙を拭こうと、顔をこする。


「ソフィア……」


 自分の名を呼ぶ声に、ソフィアは身体が溶けるような安堵感と、暖かさを感じる。


「どうしたんだ?」


《業火》が駆け寄り、ソフィアの手を握る。その温度差に、《業火》はおどろき、


「死体みたいじゃないか。それに……怪我もしてる」


 ソフィアは声を出せず、うつむいていた。


 ―先ほど出た、バカな答えをこの人に打ち明けたい。そんなことは許されない、と言ってほしい


「大丈夫か、ソフィア」


 《業火》の心配する声が、上から降ってくる。ソフィアは顔を上げる。


 ふと、打ち明けた後の《業火》の言葉が予想された。


 ―異能推進派を取り込み、飼いならす? おいおい、熱でもあるんじゃないのか? 規制だって一定の効果が出ている。一緒に闘えば何とかなるさ


 ソフィアは、現実に引き戻され、《業火》を見る。


 ―そうだよね、いっしょに……闘えば、なんとかなるよね


 ソフィアは打ち明けるべく、声を出そうとする。舌が震える。心臓が鳴り、頭痛がする。


「あの……」


 《業火》は、ソフィアが何か言うのを察し、真っ直ぐにこちらを見つめていた。


 その時、ふたりを真っ白な光が包む。同時に、轟音が響き、建物が揺れた。空が鳴動し、その余波が空気を揺らした。


 《業火》がとっさに、ソフィアを抱き、かばう。


「雷か……驚いたな」


 ソフィアは、ぼうぜんと《業火》に抱かれていた。《業火》の火傷で引きつった手がソフィアの肩を優しく包んでいる。


 雷の轟音、それはソフィアに《業火》の異能を思い起こさせた。世界を塗りつぶすような白い閃光。そして、世界を焦がしてしまうような炎。墨になり、蒸発する人々。


 ―いっしょに闘うとしたら、わたしは、あと何人、あなたに傷つけさせればいい? どこまであなたを傷つければ良い?


 ソフィアは、一瞬、《業火》の胸元に顔を押し付ける。


 ―ずっとこうしていたい。悩みを打ち明け、共に戦いたい。でも、ダメだ


 ソフィアは、《業火》を引きはがすように離れ、


「ごめんなさい……」


「いや、良いんだよ。とっさのこととはいえ、悪かった」


 《業火》は床を見つめ、


「そう言えば、何か言わなかったか?」


 ソフィアは、一瞬、声をつまらせ、


「いいえ」


 そう言い、ソフィアは自室へと戻る。《業火》は、ひとりその場に残された。

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