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6-9

「案、案、案……」


 ソフィアは、ぼうぜんとつぶやく。案などなかった。


 ―考えろ、何か隙(すき)があるはずだ


 加護、奇蹟……ソフィアは、何度もつぶやく。そうすれば、思考がまとまるとでもいうように。


 ―奴の術を整理しろ


 〈加護〉それは相手の無意識に影響を与え、異能を当てないようにさせる技。その原理は分かる。だが、その原因が子供たち以外にも居たら? 《業火》自身も「青髭は奇跡の人だ」と強く思い込んでいたら? ならば子供たちを殺しても意味はない。


 それに《業火》が異能力で人を殺せば、その精神は崩壊するだろう。これまでの戦いで《業火》の心はすり減り、罪悪感は彼を押しつぶし、息の根を止めようとしている。


 ソフィアは悪態(あくたい)をつき、下の階を見る。そこには、耳の長い子供が一人。まるで、絵画の妖精のような長い耳。


 ―いくら青髭の身体感覚が研ぎ澄まされようと、非障がい者のように動くのはどう考えても無理だ。ならば、なにかタネがあるはずだ


 ソフィアは、下の階に飛び降りる。折れた手すりを壁に押し付ける。ガリゴリ……と音をたてて、手すりが削れ、落下の速度が落ちる。


 何か柔らかいものに落下し、ソフィアは床に転がる。


 苦悶(くもん)の声をあげながら周囲を見渡すと、そこには仲間の騎士たちの死体が転がっていた。青髭の部下と重なり合っている者もいる。


 ―騎士になれば、家族を養えますか?


 そう言ってきた騎士の顔が浮かび、ソフィアは呆然(ぼうぜん)とする。


 ―もうダメだ……これ以上、死者を増やすわけにはいかない……《業火》の炎で敵を焼き尽くすしか……


 ソフィアは、自分のなかに浮かんだ思考におどろく。


 わ(・)た(・)し(・)は(・)、(・)ま(・)た(・)業(・)火(・)に(・)人(・)を(・)殺(・)さ(・)せ(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。(・)彼(・)を(・)人(・)扱(・)い(・)す(・)る(・)と(・)言(・)っ(・)た(・)の(・)に(・)、(・)未(・)来(・)を(・)創(・)る(・)と(・)誓(・)っ(・)た(・)の(・)に(・)。(・)


 ソフィアは頭を振り、思考を振り払う。そして、耳の長い子供へ接近。


 子供に近づくと、その異様さが際立(きわだ)って見えた。その鋭く大きな耳は、ヒトの物とは異なる。子供の眼には、分厚い帯(おび)が巻かれ、外界が見えないようにしてある。


「まさか……」


 ―青髭は、この子供と《心髄共鳴》で感覚を共有しているのか? この子供の驚異的(きょういてき)な聴覚で、外界を認識(にんしき)しているのか。


 ―ならば、やることは一つしかない


 ソフィアは、子供の首に手を当てる。そして、締め殺そうと、力を入れようとする。だが、力が入らない。


 ―青年たちの未来、《業火》の人間性、そして目の前の異能少女―わたしは、わたしが守ると誓ったものを何一つ守れていない。わたしは、なんて無力なのだ


「おひ……さま?」


 子供がつぶやき、ソフィアはハッと息を飲む。そして、聞き返すように、


「おひさま……?」


「もうぶたなれない……もういじめられなくなったら、これをとってもいいって……」


 子供は、自分の眼に巻かれている帯(おび)を指さす。そして、


「おひさまがみえたとき、もうぶたれないって、もういじめられないって」


 ―この異形……いや、この子供は、この姿であることで、凄絶(せいぜつ)な差別(さべつ)や迫害(はくがい)を受けてきたのだろう。望んだわけではないのに


 ―わたしは、異能者の為に、この世界を変えると、そう《業火》と約束した。その過程で、何人もの異能者を殺した。この子供も同じように殺すのか。守ると誓ったはずの存在を。


 ―この子の帯を取れば、青髭との《心髄共鳴》に影響(えいきょう)を与えることができるかもしれない。だが、もし、この子の目隠しを取れば、この子の言う「おひさま」を、未来を、作り出さなければならない。


 ―できるのか私に……こんなにも無力だというのに


 ソフィアは唇を噛(か)む。迷っている時間はなかった。このままでは《業火》は殺されてしまう。


 意を決し、ソフィアは、子供の眼から帯(おび)を解いた。


「もう、大丈夫だよ……見えるかな?」


 子供は、帯(おび)を解(と)かれ、一瞬、目を細めた。まるで、太陽に目を焼かれたかのような表情。


「おひ……さま?」


 ソフィアは、子供を抱(だ)きしめる。


「もう大丈夫だからね」


「おひさま……」


 子供が、ソフィアを抱(だ)き返(かえ)す。


 ―無力な私にできるのか? この者たちを未来に導(みちび)くことが

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