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咳き込むような、あえぐような呼吸が聴こえる。
自分を呼ぶ声がし、《業火》は目覚める。心臓が破裂しそうなほどに激しく鼓動していた。
《業火》が、まず目にしたのは若い女性。ふれれば折れてしまいそうな、華奢な印象を受ける。淡い金髪に、すき通るような肌―まるで妖精のよう。
「ソフィア……」
《業火》は女性の名を呼び、周囲を見る。ここは、小さな小屋らしい。どうやら《業火》とソフィア・アイメルトの2人しか、ここにはいないようだ。
―また人を焼き殺してしまったかもしれない
《業火》の脳裏に、焼け落ちていく家屋と、炭と化した人体が思い浮かぶ。《業火》は激しく嗚咽し、胃の内容物をすべて吐き出す。胸が締め付けられるような罪悪感に全身が震える。
ソフィアが唇を噛み、
「すまなかった……また異能を使わせてしまったな」
《業火》は身体を起こす。《業火》は、長身の男性で、細面に切れ目ということ以外には、特徴がない。黒の長髪をハーフアップにしており、どこか中性的な雰囲気を感じさせた。
ふと《業火》の脳裏にソフィアの言葉が思い浮かぶ。
―いつか必ず、お前を「武器」としてではなく、「人」として、みんなが接する世界を創ってみせる
その言葉で、《業火》の呼吸は穏やかになり、心拍は落ち着き始める。そして、冷静に、焼けていく建物を見る。そこには人影はない。
―大丈夫だ、今回は人を焼いたわけじゃない
《業火》は口元をふき、
「お前が謝ることじゃない……それに今回は、火傷で済んだはずだ」
王妃は、ふふ、と泣き笑いのような顔をし、
「お前はやめてくれよ。これでも、王妃なんだ」
「これは失礼……ソフィア王妃様」
はたから見れば、ふたりは王妃と騎士でしかない。だが、ふたりには、ふたりだけの大きな絆があり、秘密があった。
ソフィアは数年前、この国の王を暗殺した。国の財政資金を食いつぶして、異能研究を推し進める暗君だった。非人道的な実験もいとわないほどに異能に執着していた。
ソフィアは国を建て直すべく、王の暗殺を計画した。《業火》はそれに協力した。ふたりは武器も人員もまともにない状態で、王の配下と戦い、何とか勝利した。そして、王を殺した。
義理の父とはいえ、ソフィアが王を殺したのは、絶対に知られてはならない。《業火》だけがそれを知っていた。
《業火》は敬語を使うように意識し、
「それで、不法な異能研究者はどうなりましたか?」
「首謀者や出資者はまだ特定できない。だが、子供たちは保護できたよ」
「そうですか……」
非人道的な異能研究を行う者が次々に現れていた。そのなかにはアイメルト家の騎士もいた。まるで前王の呪いだ、とは《業火》はあえて言わない。
「いまは、情報収集に努めている。すぐに首謀者は明かされる」
ソフィアは独自の諜報網を作り、知略で敵を追い詰めていた。
さすが稀代の策略家ですね―《業火》は言いかけ、やめる。
ソフィアの眼は、昏く、鋭い。20代前半とは思えない顔つきだった。
―ソフィアの知性と胆力にばかり頼ってしまっている
《業火》は、うつむき歯噛みした。
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