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9-9 (8.5-13)

 エアハルトは、矢を掴み、震えていた。


「やるじゃないか」


 ほんのわずか、紙一重で攻撃は届かなかった。


 ―負けた


 ガクは、剣を構え、攻撃に備える。


 だが、相対するエアハルトは、矢をもてあそび、


「合格だ。じゃろう、オリヴィア」


 エアハルトは、白い羽根の集合体になり、ばらばらと散っていく。そして、中から一人の老人が現れる。背の高い、長髪の老人。


 オリヴィアが立ち上がり、うなずく。その動きは、傷などないかのように軽い。


 ガクは震える声で、


「ど、どういうことですか?」


「これは試験だった、そう言えば理解してくれるかな?」


 オリヴィアが言い、ガクは振り返る。


「試験……?」


 老人は、白い髭を撫でながら、


「まず、我々は、北部同盟内に存在する組織でな。まぁ機関(システム)とでも呼んでくれ。フェルグスのような、高位の物しか知らない秘匿性の高い組織だ」


 ガクは、ある噂を思い出す。北部同盟の議会内には、異能を監視するための巨大な極秘機関が存在する、と。


 ―まさか、本当に存在するとは


 ガクの驚愕を無視し、老人は続ける。


「前提条件として、いま、お主は、死にかけておる」


 ガクの脳裏にある映像が浮かぶ。全身に焼けた鉄を押し付けられたような強烈な熱さ。


 思い出す―腕に空いた黒い穴。ざっくりと皮膚がえぐれている。


 ―そうだ


 ガクは、ここに来るまでの道のりを思い出していた。


 《迅刀》と戦っている最中に、全身をズタズタにされ、意識を失ったのだ。


「ぼくは……死んだんですか? ここは……地獄ですか?」


 ガクは、呆然とし、自分の掌を見る。すると、指は千切れ、掌は形を残していなかった。嗚咽し、涙を流すが、片目の感覚がない。


 老人は、かすれた声で、


「今、死に向かいつつある状態ということじゃ。そして、この空間は《心髄共鳴》で作り出されておる」


「死にたくない……」


 老人が、眼を細め、


「通常の医療では、もう手遅れじゃ。だが、我々の持つ医療技術を使えば、助かる可能性もある」


 老人が手をかざすと、あるものが浮かび上がる。それは、巨大な繭(まゆ)。植物が絡み合い、作られている。


「お主なら、分かるであろう。これに入れば、傷の治りは促進される。そして……」


 老人が、言葉を区切る。ガクには、その意味が分かった。


 老人の手のなかにあるのは、植物の力を使った強力な治癒技術。だが、もし、自分がそれに入れば《植物操作》が発動する。


「外界と遮断され、かつ意識レベルが低い状態で、植物と密に繋がる。異能をつかさどる体内の器官が調整され、異能は覚醒し、お主は、凄まじい力を得ることになる」


 凄まじい力を得た状態で目覚め、そして、復讐に走れば、どうなるか―


「異能力の乱用……」


 ガクの脳裏に、業火(インフェルノ)が浮かぶ。北部同盟の騎士を何人も死に至らしめた強力な異能。


 老人は、うなずき、


「ワシらは、お主が異能を乱用するかどうかを確認したうえで、お前を蘇らせるか、それとも見殺しにするか、判断することにした」


 オリヴィアが、ガクの肩を叩き、


「この空間は、試験会場という事だ」


 ガクは、生唾を飲み込み、


「もし、不合格だったら……?」


「殺す」


 老人は、言い、


「だがな。ガク、お主は驚異的な精神力で、試験を突破した」


 ガクは、思い出す。《業火》を使えるようになったが、ガクは、それを使ってエアハルトを焼き尽くそうとはしなかった。もし、《業火》を使えば、建物ごと全焼していた可能性もある。


「お主に、これから緊急の医療をほどこす」


「ですが……僕が、異能を乱用しないとは限らない……」


 ガクは、かすかに声を荒げる。


 老人は、そうじゃな、と短く言い、


「北部同盟は、あの災禍(業火による大量虐殺)を二度と起こさないために、ある防御機構を作りだした。だから、問題はない」


「防衛……機構?」


「そうだ。ワシらは、それを《原罪の樹》と呼んでいる」


 ガクは、とっさに思う。原罪(アダムとエヴァ)が喰らった、神の実。


「ワシらは、アイメルト家から、その技術を接収した。そして、実用化までこぎつけた。植物は、ヒトを遥かに超えた知覚能力を持つ。そのなかでも、ヒトのストレス反応や感情の変化に敏感な種を、大陸全土に植えた。ワシの言いたいことは、もう分かるだろう」


「異能力者が、強いストレス反応、もしくは強烈な感情を想起した際、それを検知できる巨大なネットワークを作り上げた……という事ですね」


 異能者が、罪を犯そうとすれば、それを検知する監視システムー


「いや、まだ大陸全土はカバーできていない。北部同盟中央区のみだ。だが、その有用性は確認できた」


 老人は、ガクを指さし、


「現に、お主をこうして、心髄共鳴によって、呼び出せたのも《原罪の樹》の検知によるものだ」


 ガクは、息を飲む。


「僕は……確かに、強い感情想起をしたかもしれない。死にたくない、敵が憎いと……異能を使い、蘇りたい、と」


 ガクは、急速な落下感に怯える。


 老人の声が遠くなり、視界が暗転する。


「ここでの記憶と共に、強力な異能力は封印させてもらう。本当に危険な場合のみ、ここでの記憶と能力を発動できるようにする」


 ガクは、手を伸ばすが、さっき話していた「誰か」の声は遠ざかっていく。

 読んで頂きありがとうございます。感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。


 今回の章「神殺し 編」は、「異能殺し 編」の8話と9話の間に起きた話です。なので、副題が、「8.5-13」となっております。


 「灼花 編」で、ガクが、チユキを助けに行く、というシーンも、ボロボロの状態のガクに何ができる?という疑問を感じるシーンかと思います。実際は、この章で、強力な異能力を得ていた為、それを使い<迅刀>を倒そうとしていたという設定になっています(後付け)

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