6-9
ガクは、オリヴィアと、廻廊のなかを進んでいた。
オリヴィアは、北部同盟騎士団に雇われている「傭兵」だという。
その異能のレベルは、位階「超域」。最高位である「神域」よりは、劣るが、それでも凄まじい力。
「敵……いませんねぇ」
オリヴィアが、が首をかしげる。黒髪のロングヘヤが、白い甲冑の上を、滑らかに移動する。白と黒の対比は、良く映えた。
すっげぇ美人だな! と、エッカルトが言うのが幻聴で聴こえる。
みなに会いたくて、ガクはわずかに涙ぐむ。
「焦らず、進みましょう」
オリヴィアは、腰のロングソードに手をやり、進んでいく。
「ここまで緻密な亜空間を顕現させるとは、超級以上の異能者でしょう」
「アイメルトの残党でしょうか?」
「おそらくは……」
「何時間も人を閉じ込めて、何の意味があるんでしょうか」
ガクの言葉に、オリヴィアが眉をひそめる。
「何時間……? ガク君、君は、ここに何時間もいるのですか?」
「え……」
ガクは、唖然とし、間の抜けた声を出してしまう。
「私は、ここに迷い込んで、すぐに、ガク君と出会いました。一人でいたのは、数分ですよ」
「そんな……」
ガクの脳裏に、サイゴウの声がよみがえる。
『数分歩いただけなので、確信はないが……おそらく、これは、《心髄共鳴》が作り出した幻だ』
「なんで……僕だけ」
オリヴィアは、ガクの肩に優しく手を置き、
「ガク君が攻撃目標なのかもしれません」
「僕は……どうすれば?」
「大丈夫です。落ち着いてください。これはある種の精神攻撃です。もしかしたら、わたしやサイゴウと出会った時のことがヒントになるかもしれません」
なにか、思い出せますか? とオリヴィアは、ガクに問いかける。
―まさか
ガクは、息を飲む。
サイゴウとあった時は、激しい孤独と恐怖。オリヴィアとあった時は、激しい恐怖と後悔。
「僕の……感情が、トリガーになっているのかも……」
ガクが言った瞬間、扉の奥から強烈な風。
すぐそばに白い「何か」が立っているのが見えた。それは、白い翼の生えた人だった。
男性の背中からは、純白の翼が生えている。背から生え、本人の身体と同じくらい大きい。それがショールのようになっている。
「《天恩》様……?」
ガクは、呆然とする。
《天恩》―アイメルト最強の異能者と言われた男。だが、あまりにも強すぎたため、暗殺されたと言われている。アイメルト家の栄華を象徴する異能者の一人だ。
《天恩》の中性的な顔に髭はない。滑らかで癖のない髪は耳が少し隠れる程に伸ばされている。その髪色は、穢れを知らぬかのように純白。
「いかにも。僕は《天恩》だ」
鈴が鳴るような、透き通った低い声。聴いていると不思議と落ち着く響き。
「君たちは……何者なんだ?」
《天恩》は、眼を細める。
オリヴィアは、剣を抜き、構える。そして、吠える。
「貴様は……死んだはずだ!」
「勝手に殺さないでほしいな」
《天恩》は、翼をはばたかせる。強烈な風が、オリヴィアを打ち、壁に激突する。
ガクは、それを、唖然として見つめる。
ふわりふわりと、白く清らかな塊が空から舞い降りてくる。この世のものとは思えないほどに美しい。
―地上に降りてきた天使だ
「ガク君……逃げて」
オリヴィアが血を吐きながら、言う。
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