5-9
誰かに、強く抱きしめられているような、押しつぶされているような―
ガクは、髪の毛のなか、剣を振るう。
―あきらめてたまるか
涙が、零れ、鼻水でむせる。
―死にたくない、死にたくない、こんなところで
剣が、絡めとられ、ぐっと引っ張られ、重くなる。
「誰か……誰か!」
口元まで、髪が押し寄せ、息すらできなくなる。頭皮の、わずかに脂っぽい匂いで、息がつまり、息が出来なくなる。
―力が欲しいか? 生き残りたいか?
また、地の底から響くような低い声。そして、ガクには、声の主が、ガクに宿そうとしている凄まじい力が手に取るように分かる。
大火を生み出し、全てを焼き尽くし、世界を灰にする。
―こんな力を手に入れたら……
意識が鈍くなる。
しゅん、という、風切り音。急激に、口回りが軽くなり、あえぐように呼吸する。
咳き込みながら、前を見ると、ひとりの騎士が立っていた。すらりと背の高い、女性騎士。歳は、20代後半だろうか。
陶器のように白く透明な肌。絹のような黒髪。切れ目で、細く、開いているか分からない目。
「助けて!」
ガクは、必死に手を伸ばす。
女騎士は、恐怖に顔を歪めることもなく、
「オリヴィア・オイレンブルク。参る」
オリヴィアは、腰に手をやり、ロングソードを抜く。
「脳が痺れます。構えて」
オリヴィアは、囁く―
心髄共鳴
《断首騎行》
オリヴィアは、剣を構え、人形に躍りかかる。その瞬間、オリヴィアの身体から、数人の騎士が現れる。まるで、影分身のようだ。
―一体、どこから現れた?
5人の騎士が、オリヴィアの身体から「現れ」、人形に襲い掛かる。その騎士には、首がない。
―首無し騎士を召喚した!
ガクは、ぽかんと口を開ける。
オリヴィアと、5人の首無し騎士は、髪の毛を断ち、人形へと接近。6本の剣が、人形をバラバラに切り裂く。そして、その残骸を、空中で掲げる。
髪の毛が、ほどけ、地面に落ちていく。
「大丈夫ですか?」
髪の毛から、逃げようと、もがくガクを、オリヴィアが助け出す。
「ありがとうございます……」
「怖かったでしょう。もう大丈夫ですよ」
オリヴィアは、ガクを抱きしめた。ほのかに甘い香りがし、ガクは意識を失った。
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