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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第二部 2章 心髄共鳴 編
71/82

2-5

 幼児の絵―それが初めて、この空間を見た時の印象だ。


 絵の具を適当にぶちまけたような色彩が、白い空間に点在している。


「これは……幻術?」


 ガクは周囲を見渡す。


「違うっス」


 ニッコラが、現れる。その服装が一瞬で変わる。眼鏡が消え、おかっぱ頭は、団子結びに変わっている。


心髄共鳴(しんずいきょうめい)、と私は呼んでいるっス」


「心髄共鳴?」


「異能同士でしか顕現(けんげん)しない、結界のようなものっス」


「非現実なのですか?」


「現実と、非現実が溶けあった世界っス」


 ニッコラは、持っていた大きな筆を振るう。黒い絵の具。それが飛び散り、地面を汚す。その細長い汚れは、薄れ、影のようになる―いや、何かの影だ。



 《画竜点睛》



 ニッコラが、何かを呼び出すように言う。


 ガクが、はっと顔を上げると、巨大な影が見える。


 視界を覆っていたのは、巨大な蛇のような怪物。だが、顔は、獅子とも狼ともつかない、凶暴な顔。顔を覆うのは、白いたてがみ。


 ガクは、とっさに身を護る。


 しかし、薙がれた尻尾は、身体を打つ。息が肺から抜け、倒れる。


 ガクがうめいていると、


「本当にダメージを与えた訳じゃないっス」


 ニッコラが、怪物の肌に触れ、言う。


「これは、私のイメージなんスよ。それが、ガク君の脳と共鳴している」


「意味が……」


 ガクがうめくと、


「ガク君は、異能の源を知っているっスか?」


「《神体》……ですか?」


「ベリーグッドっス」


 ニッコラは親指を立てる。


「北部地域に突如、落ちてきた神、もしくは上位存在の死体。それが分解され、周囲の生物に影響を与えた、それが異能力のきっかけっス」


 その死骸の一部が残っている、とまことしやかに囁かれている。それが《神体》だ。


「《神体》から生まれた異能力、その始祖は何だったか知ってるっスか?」


「分かりません」


「植物の声を聴く能力者っスよ」


「〈土の巫女〉……ですね」


「そう。彼女らは《神体》の死体のある場所で暮らし、そこで周囲の植物の感覚を感じ取る能力を得た」


 ニッコラは、八重歯を見せ、ほほ笑む。


「異能の影響を受けた植物と、異能の影響を受けたヒト。その感覚が繋がる……奇妙っスよね。でも、異能にはそのような力が備わっているっス。基本仕様としてね」


「それが生み出したのが、この空間ですか?」


「エクセレント!」


 ニッコラは高らかに言う。


「さっき見せた絵で、君は深い悲しみ、苦しさ、憎悪、様々な感情を想起した。その中に、私が抱いた感情と非常に近い物があった。すると―」


 ニッコラは、拳と拳をぶつけ、


「特定の器官が激しく共鳴し、このような世界を作りだしたっス」


 怪物―いや、ドラゴンが、ガクへと向かい、体当たりしてくる。


「え……ドラゴン?」


 ガクは、困惑する。なぜ、ドラゴン、だと分かった?


 吹き飛ばされ、腹部を押えながら、ガクは呻く。なぜ、避けられなかった。


「深く共鳴した異能同士は、その思考の一部が互いの脳内に流れ込むっス。ガク君が、この怪物をドラゴンと認識したのは、私の思考が流れ込んだからっス」


 ドラゴンは、さらにドラゴンらしい形に姿を変える。四肢が生え、細長いひげが生える。そして、鹿のような角が生え、顔はワニと、狼を組み合わせたようになる。


 ドラゴンが咆哮する。


「ガク君の痛みも、私のイメージが流れ込んでいるからっス。強力な打撃、それを私が与えたと強く重い、それをガク君が受け入れることでダメージになる」


 ガクは腹を押える。


「相手に、自分のイメージを押し付ける。心の奥深く、髄の芯から共感する、それが心髄共鳴っス」

 読んで頂きありがとうございます。はげみになりますので、感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。


【宣伝】


 本文中に登場する「神体」ですが、詳しい説明や、末路は拙作「白銀の大剣よ、舞え ~白妙の狂戦士~」で触れられています。


 また、それが異能を生み出したことにより発生した社会のゆがみを拙作「異能共よ、我が刃の錆となれ ~無能力な王妃が頭脳で「最強」を殺す~」で描いています。

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