2-5
幼児の絵―それが初めて、この空間を見た時の印象だ。
絵の具を適当にぶちまけたような色彩が、白い空間に点在している。
「これは……幻術?」
ガクは周囲を見渡す。
「違うっス」
ニッコラが、現れる。その服装が一瞬で変わる。眼鏡が消え、おかっぱ頭は、団子結びに変わっている。
「心髄共鳴、と私は呼んでいるっス」
「心髄共鳴?」
「異能同士でしか顕現しない、結界のようなものっス」
「非現実なのですか?」
「現実と、非現実が溶けあった世界っス」
ニッコラは、持っていた大きな筆を振るう。黒い絵の具。それが飛び散り、地面を汚す。その細長い汚れは、薄れ、影のようになる―いや、何かの影だ。
《画竜点睛》
ニッコラが、何かを呼び出すように言う。
ガクが、はっと顔を上げると、巨大な影が見える。
視界を覆っていたのは、巨大な蛇のような怪物。だが、顔は、獅子とも狼ともつかない、凶暴な顔。顔を覆うのは、白いたてがみ。
ガクは、とっさに身を護る。
しかし、薙がれた尻尾は、身体を打つ。息が肺から抜け、倒れる。
ガクが呻いていると、
「本当にダメージを与えた訳じゃないっス」
ニッコラが、怪物の肌に触れ、言う。
「これは、私のイメージなんスよ。それが、ガク君の脳と共鳴している」
「意味が……」
ガクがうめくと、
「ガク君は、異能の源を知っているっスか?」
「《神体》……ですか?」
「ベリーグッドっス」
ニッコラは親指を立てる。
「北部地域に突如、落ちてきた神、もしくは上位存在の死体。それが分解され、周囲の生物に影響を与えた、それが異能力のきっかけっス」
その死骸の一部が残っている、とまことしやかに囁かれている。それが《神体》だ。
「《神体》から生まれた異能力、その始祖は何だったか知ってるっスか?」
「分かりません」
「植物の声を聴く能力者っスよ」
「〈土の巫女〉……ですね」
「そう。彼女らは《神体》の死体のある場所で暮らし、そこで周囲の植物の感覚を感じ取る能力を得た」
ニッコラは、八重歯を見せ、ほほ笑む。
「異能の影響を受けた植物と、異能の影響を受けたヒト。その感覚が繋がる……奇妙っスよね。でも、異能にはそのような力が備わっているっス。基本仕様としてね」
「それが生み出したのが、この空間ですか?」
「エクセレント!」
ニッコラは高らかに言う。
「さっき見せた絵で、君は深い悲しみ、苦しさ、憎悪、様々な感情を想起した。その中に、私が抱いた感情と非常に近い物があった。すると―」
ニッコラは、拳と拳をぶつけ、
「特定の器官が激しく共鳴し、このような世界を作りだしたっス」
怪物―いや、ドラゴンが、ガクへと向かい、体当たりしてくる。
「え……ドラゴン?」
ガクは、困惑する。なぜ、ドラゴン、だと分かった?
吹き飛ばされ、腹部を押えながら、ガクは呻く。なぜ、避けられなかった。
「深く共鳴した異能同士は、その思考の一部が互いの脳内に流れ込むっス。ガク君が、この怪物をドラゴンと認識したのは、私の思考が流れ込んだからっス」
ドラゴンは、さらにドラゴンらしい形に姿を変える。四肢が生え、細長いひげが生える。そして、鹿のような角が生え、顔はワニと、狼を組み合わせたようになる。
ドラゴンが咆哮する。
「ガク君の痛みも、私のイメージが流れ込んでいるからっス。強力な打撃、それを私が与えたと強く重い、それをガク君が受け入れることでダメージになる」
ガクは腹を押える。
「相手に、自分のイメージを押し付ける。心の奥深く、髄の芯から共感する、それが心髄共鳴っス」
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本文中に登場する「神体」ですが、詳しい説明や、末路は拙作「白銀の大剣よ、舞え ~白妙の狂戦士~」で触れられています。
また、それが異能を生み出したことにより発生した社会のゆがみを拙作「異能共よ、我が刃の錆となれ ~無能力な王妃が頭脳で「最強」を殺す~」で描いています。




