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北部同盟中央区では、かりそめの平和が訪れていた。
異能を乱用する「アイメルト家」の残党の掃討。異能者を差別し、分断を加速させようとする《異能殺し》との戦い。それには、何とか勝利してきた。
攻められず、攻めず、誰も戦で死ぬことのない世界。
そんななか、ガクは稽古場にいた。
ガクは、稽古しながら、ため息をつく。
《異能殺し》との戦いで、ガクは生死を彷徨うほどの重傷を負わされた。同時に、自分の異能力の限界を思い知らされた。あれから、2か月、ずっと悩み続けてきた。
ガクは、稽古しながら、ため息をつく。
―体の傷は、まだ完全に癒えていない。これから癒えるかも分からない
もう、昔のようには動けない。知覚を一時的に高速化させ、高速移動を行う《加速》の使用回数も減ったはずだ。
―ぼくは、なにもできない
コツコツ、と杖をつく音が聴こえる。後ろから、情報管理官が現れ、
「最近、稽古を増やしているようですね」
「まぁ……そうですね」
ガクは、うなずき、わずかに視線を下に落とす。
「フェルグス様から命令です。異能を用いた新しい技術を学ぶように、とのことです」
「新しい…技術ですか?」
情報管理官は、第二稽古場への出頭を命じてきた。言われた通り、郊外にある第二稽古場へ向かう。
第一稽古場よりも大きく、広い。団体戦などで使う、特殊な稽古場だ。
ガクは、受付を済ませ、武器を預ける。
扉を開けると、大きな稽古場が広がっていた。
そこに小さな人影。オレンジに近い茶髪を、おかっぱにしている。
子供が迷い込んだのだろうか、そう思い、姿勢を低くする。
「どうしたの? どこから来たの?」
少女が振り返る。その顔には、大きな眼鏡。眼が不自然に大きくなるほどの、度数。
「失礼っスね……ガク君」
その眼が不敵に細められる。
「え……」
少女(?)が、微笑み、ギザギザの歯が覗く。
「私の名前は、ニッコラ。北部同盟騎士団、異能研修室の研究員っス」
「失礼しました」
ガクは、焦り、背筋を伸ばす。
ニッコラは、手をひらひらとさせ、
「まぁまぁ、いいでしょう。童女のようにベリィプリティーという事っスよね」
「そ、その通りです」
ガクは、ちらりとニッコラを見る。ひょこひょこと動くさまは、30代には見えない。
「今日は定時で帰りたいんで、パパっと済ますっスよ」
ニッコラは、大きな本を何冊が持ってくる。
「これを見るっス」
ガクは、本をめくる。赤子が誕生し、喜ぶ夫婦の絵。喜びがこちらまで伝わってくる表情に、ガクは少し微笑む。
さらにめくっていく。少女は育ち、野山を駆けまわる。おてんばなのだろう、兄たちと遊んでいる。
気が付くと、夢中でめくっていた。少女は、成人になる。凛とした美しさを持つ女性になり、少女は、どこかの王室へと嫁ぐことになる。
―あれ
ガクは妙な胸の高まりを感じる。
そして、次のページをめくり、息を飲む。
女性は、赤を基調としたドレスを着ている。そのアイスブルーの瞳と、凛とした顔に、ガクは見たことがある。研究所にあった肖像画。
―ソフィア・アイメルト!
ガクは、アイメルト家の女帝の名を思い浮かべる。腐敗と汚職に満ちた、アイメルト家の政治を改革し、アイメルト家を躍進させた女帝。国を立ち直させ、安定させた。アイメルト家の領地が、国家として確固たる地位を得ているのは、彼女の存在が大きい。
―異能研究に取り付かれなければ、良い君主だったはずだ。不死の異能力を得た後も飽き足らず、異能を渇望し、英雄は怪物へと変貌した。
―怪物は、北部同盟騎士団によって、首をはねられた。
結末を知っているから、ガクは、最後のページをめくれない。
「見ないんスか?」
ニッコラが、聞いてくる。
ガクは、歯噛みし、頁をめくる。
その瞬間、頭痛がした。
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本文中で出て来るソフィア・アイメルトは、拙作「黒の鉄腕よ、滾れ」の登場人物であり、「異能共よ、我が刃の錆となれ ~無能力な王妃が頭脳で「最強」を殺す~」の主人公でもあります。




