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《ファントム・ブレード》は、息が切れかけ、とっさに足の速度を落とす。敵は無様に逃亡を続けている。考えがあるようなないような、同じ場所を何度も行ったり来たり、無様な逃亡劇だった。
《ファントム・ブレード》は、草花を踏み、枝につまずきそうになりながら、ガクを追った。
口から吐きだす息(二酸化炭素)で居場所がバレたことがある。蚊が集まってきたところを、矢で射られたのだ。その時の傷は、腹に残っている。
―まさか、奴もそれを使うつもりか? だが、建物内ならまだしも、ここは森だ。大型動物も呼吸はする。私だけを狙撃することはできまい
《ファントム・ブレード》は、瞬時に呼吸を整える。何年ものトレーニングのたまものだった。呼吸は最小限になり、心拍数は落ちていく。
自分の皮膚や髪の毛の色を変幻自在に変えることができた。剣は、様々な紋章を刻み、そこに髪の毛を巻き付け、消している。
―奴を捕らえ、拷問し、北部同盟の動きを探る。捕まる訳にはいかない
《ファントム・ブレード》は、森のなかを走り出す。ふと、甘い香りがし、立ち止まり、樹を背後にし、剣を構える。
―なんだ?
ぶぅん、と虫の羽音が聴こえる。まさか、蚊かと思いきや、それは小さな甲虫だった。
無視しようとする。だが、その羽音はやがて、大きくなり、数が増えていく。
耳をつんざくような、大量の羽音。
「なっ……!」
竜巻のような、黒く大きな影―その正体は、大量の虫。それが《ファントム・ブレード》にめがけ、飛んでくる。まるで見えているかのように。
―バカな、呼吸は整えているし、一体、なぜ?
虫を払うべく、《ファントム・ブレード》は剣を薙いだ。
次の瞬間、目の前に、ガクがいた。その手には、木剣。
腹部に強い熱。みぞおちと、胸部、そして、背中を殴打されたのだ。
「ぐふっ……!」
《ファントム・ブレード》は倒れ、その迷彩効果がなくなってしまう。痩せた少女が虚空に浮かび上がる。衣服は着用しておらず、白い肌には、細かい傷が付いていた。
「どう……して」
うめきながら、《ファントム・ブレード》は、訊く。
ガクは、手錠をかけ、足枷を付ける。そして、羽織っていたマントをかけ、その裸体を覆う。
「植物を操作し、特殊な化学物質を出させた」
「フェロモン……だと」
「植物は、様々な状況でフェロモンを出す。交配、防衛、攻撃……中には、自分の天敵の天敵をおびき寄せるようなものもある。僕は、それを放出させただけだ」
《ファントム・ブレード》は、歯噛みする。
「走ったルート……あそこの花や草からフェロモンが出ていたのか」
ガクは、うなずき、
「そう。君が踏みつぶし、その足は大量のフェロモンが付着した。僕は、避けて走ったけど、君は多くを踏みつぶしたからね」
「蟲の攻撃を誘発するフェロモンか……」
《ファントム・ブレード》は、ため息をつき、悲しげに少し笑った。
ガクは、《ファントム・ブレード》に、猿ぐつわを噛ませ、自殺を防ぐ。そして、睡眠を誘発する薬を嗅がせた。
《ファントム・ブレード》は、肩を落とし、ぐったりとした。
「終わった……」
ガクは、地面に倒れ込み、大きく息を吐いた。
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