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3-3

 《ファントム・ブレード》は、息が切れかけ、とっさに足の速度を落とす。敵は無様に逃亡を続けている。考えがあるようなないような、同じ場所を何度も行ったり来たり、無様な逃亡劇だった。


 《ファントム・ブレード》は、草花を踏み、枝につまずきそうになりながら、ガクを追った。


 口から吐きだす息(二酸化炭素)で居場所(いばしょ)がバレたことがある。蚊が集まってきたところを、矢で射られたのだ。その時の傷は、腹に残っている。


 ―まさか、奴もそれを使うつもりか? だが、建物内ならまだしも、ここは森だ。大型動物も呼吸はする。私だけを狙撃することはできまい


 《ファントム・ブレード》は、瞬時に呼吸を整える。何年ものトレーニングのたまものだった。呼吸は最小限になり、心拍数は落ちていく。


 自分の皮膚や髪の毛の色を変幻自在に変えることができた。剣は、様々な紋章を刻み、そこに髪の毛を巻き付け、消している。


 ―奴を捕らえ、拷問し、北部同盟の動きを探る。捕まる訳にはいかない


 《ファントム・ブレード》は、森のなかを走り出す。ふと、甘い香りがし、立ち止まり、樹を背後にし、剣を構える。


 ―なんだ?


 ぶぅん、と虫の羽音が聴こえる。まさか、蚊かと思いきや、それは小さな甲虫だった。


 無視しようとする。だが、その羽音はやがて、大きくなり、数が増えていく。


 耳をつんざくような、大量の羽音。


「なっ……!」


 竜巻のような、黒く大きな影―その正体は、大量の虫。それが《ファントム・ブレード》にめがけ、飛んでくる。まるで見えているかのように。


 ―バカな、呼吸は整えているし、一体、なぜ?


 虫を払うべく、《ファントム・ブレード》は剣を薙いだ。


 次の瞬間、目の前に、ガクがいた。その手には、木剣。


 腹部に強い熱。みぞおちと、胸部、そして、背中を殴打されたのだ。


「ぐふっ……!」



 《ファントム・ブレード》は倒れ、その迷彩効果がなくなってしまう。痩せた少女が虚空に浮かび上がる。衣服は着用しておらず、白い肌には、細かい傷が付いていた。


「どう……して」


 うめきながら、《ファントム・ブレード》は、く。


 ガクは、手錠をかけ、足枷を付ける。そして、羽織っていたマントをかけ、その裸体を(おお)う。


「植物を操作し、特殊な化学物質フェロモンを出させた」


「フェロモン……だと」


「植物は、様々な状況でフェロモンを出す。交配、防衛、攻撃……中には、自分の天敵の天敵をおびき寄せるようなものもある。僕は、それを放出させただけだ」


 《ファントム・ブレード》は、歯噛みする。


「走ったルート……あそこの花や草からフェロモンが出ていたのか」


 ガクは、うなずき、


「そう。君が踏みつぶし、その足は大量のフェロモンが付着した。僕は、避けて走ったけど、君は多くを踏みつぶしたからね」


むしの攻撃を誘発するフェロモンか……」


 《ファントム・ブレード》は、ため息をつき、悲しげに少し笑った。


 ガクは、《ファントム・ブレード》に、猿ぐつわを噛ませ、自殺を防ぐ。そして、睡眠を誘発する薬を嗅がせた。


 《ファントム・ブレード》は、肩を落とし、ぐったりとした。


「終わった……」


 ガクは、地面に倒れ込み、大きく息を吐いた。

 読んで頂きありがとうございます。はげみになりますので、感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。

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