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少年は、森のなかを走っている。その息は切れていた。
キャハハ、と少女の嬌声が聴こえ、樹々に反響する。
―どこにいる?
少年―ガク―は走りながら、周囲を見る。その中性的な顔は、恐怖でゆがんでいた。
キャハハハ―
少女のような、猿のような声がし、草むらから真っ黒な「何か」が突然現れる。まるで空間が歪んだかのように、刃が現れ、ガクを襲う。
ガクは、とっさに剣で防御。
「ぐっ……!」
相手の刃が、わずかに頬を切る。
刃は消え、また少女の声が遠ざかる。透明化―強力な異能力だった。
―なるほど、これなら百人切りと言われるわけだ
ガクは、「北部同盟」と呼ばれる国家に所属する騎士の一人だ。その仕事は、異能力を持つ能力者の捕獲、場合によっては殺害。
異能力、それはかつて大国同士の戦争に使用された凄まじい力。能力を持つ者は、おおよそ人としては扱われず、場合によっては神のように崇められ、場合によっては兵器として、その人間性をすりつぶされた。
異能力は、危険すぎた。そのため戦勝国である北部同盟は、その管理に乗り出した。
北部同盟は、能力者の保護と生活特区を作り、その能力を制限し、無能力者と近い生活が行えるように尽力を尽くしている。
だが、北部同盟が管理を始めた今でさえ、その力を乱用しようとする者は多い。
ガクは、腕の傷をチラリと見る。切り裂かれ、血が流れている。傷は浅い。だが、何度も受ければ、やがて動けなくなる。
《ファントム・ブレード》の異名は伊達ではない。だが―
ガクは、不敵に微笑む。それは、虚勢でもあり、同時に自分を鼓舞する動作だった。
―見えない刃なら、何回も戦って生き延びてきた。目視不能な斬撃、空中に散布する微細で切傷性のある結晶……
勝てる。ガクは、そう思い込む。そして、思考する。
ガクの異能力は《植物操作》だ。
草木の声が聴こえる―日光が欲しい、捕食者が迫っている、水が足りない、湿気が……
《植物操作》は、植物と知覚を共有し、その操作を行うという異能力だ。力が強大であれば、大樹の幹を動かし、それを振るったり、森の中にいる敵を遠距離から見つけることができる強力なスキルだ。
しかしガクにできるのは、自分と同じくらいの大きさの草木の知覚を感じ取り、ほんのはずかに操ることだけだ。
ガクの耳元で、嬌声が聴こえる。ハッ、とし、剣を振るうが、声が遠ざかっていく。
「そんな外れスキルじゃ、かすりもしないよ」
完全な透明化、そして、足音をたてずに走る能力。勝てるわけがない。
ガクは、震えながらも不敵に微笑む。そして、見えない相手に向かって、
「外れかどうか、確かめさせてやるよ」
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