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59話

【1】


 情報管理官スパイマスターが《異能殺し》のアジトを発見した―


 その知らせを受け、寝ていたエッカルトは跳び上がった。眠い目をこすり、ロウソクに火をつける。


 《異能殺し》が襲撃に来るでもなく、報復派が攻撃を開始するでもない、第三の展開だった。


「やった……」


 エッカルトは、武器を持ち、家を出る。


 ―頼むから、何も起きないでくれ





【2】 


 チユキは、ろうのなか、冷めたい床に寝ころんでいた。自分の過熱した思考を冷ますように。


 自分の命と引き換えに《迅刀》を殺すアイデアがあった。この命を賭してでも《迅刀》は生かしておくわけにはいかない。


『お願いだから……行かないで』


 ガクの声がよみがえり、チユキは木刀のつかを握りしめ、かすかにうめく。


 《迅刀》を殺せば、異能者と無能力者の分断は加速するだろう。憎悪が次の憎悪を作り出すという悪循環を生む可能性もある。


 それに、分断を作り出した社会構造や、人物(扇動者)がいるのだとすれば、それを探るには、《迅刀》から調査を行わなければならない。


 ―殺してはいけないことは分かっている。だが、それでは


 チユキは、壁に寄りかかり、眼をつむる。呼吸を整え、気持ちを落ち着けようとする。





 気が付くと、眠ってしまっていた。


 ふと、金属音がし、ろうかぎが開いていることに気づく。


 チユキは、そっと周囲を見渡す。そして、牢のそばには、刀が二本。先日の戦いで折れた〈白雪〉とは違う無銘のもの。そして、赤い戦闘服とマント。


 装具のそばに、紙が置いてある。そこには、妙な文面と地図。


 内容を要約するとこうだ―2時間後に、北部同盟騎士団が《迅刀》を捕らえる。


 地図に載っているのは、森のなかに放置された廃教会だ。


「誰が……」


 罠か? だが、自由になったのは事実だ。


 装備を身に着ける。そして、腰の背嚢バックパックのなかを意識する。背嚢のなかの植物と意識をつなげる。


 チユキは、マントを羽織はおり、騎士団の事務所の近くに行く。闇にまぎれ、監視していると、紙の通り、捜索隊が馬の準備を始める。


 騎士が集まり、怒声を発していた。


「《迅刀》の居場所が分かった。これから強襲する!」


 ―着いて行き《迅刀》を殺すべきか?


 ―どうする?


 チユキは、警備を気絶させ、ガクのいる寮へと侵入した。無音で部屋に忍び込む。エッカルトが横で寝ていた。


 ガクにごめんね、と伝えに来たのだ。


 ―あなたのお陰で、わたしは幸せだった。


 ふと、寝ているガクの掌が開いていることに気づいた。それが何か、チユキはすぐに分かった。


 チユキは、エッカルトに毛布を掛けてやり、森へと向かった。

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