57話
【1】
チユキの牢(牢)に、フェルグスと、情報管理官が現れた。
「仕事を頼みたい」
「《迅刀》の暗殺ですか?」
「違う」
情報管理官は、唇を吊りあげ、
「騎士団内に内通者がいる。それを特定してほしい。それを特定できない限り、捜査が進展しない」
フェルグスが咳ばらいをし、
「《異能殺し》は再度、北部同盟に対する襲撃を行うと思われる。それだけは防がなければならない。現状、全く捜査が進んでいないのだ。頼む……チユキ」
「《迅刀》の殺害を許可して下されば、いくらでもやりますよ」
「《迅刀》は殺さず捕獲、それが絶対だ」
チユキは、情報管理官を見る。
「殺してはいけないのは、政治的な理由らしいですね」
「そうだ」
情報管理官が言い、
「理由は二つある。一つは、襲撃者と、その支援者を調査する必要があるからだ。彼らのなかにある偏見や差別感情を詳しく調査する必要がある。
もう一つは、北部同盟の異能者が《迅刀》を殺せば、分断を加速させる可能性がある。それはできない」
「奴を放っておくのですか?」
「騎士たちで捕え、法の下で裁く」
チユキは唇を歪め、
「やられっぱなしってことですか」
フェルグスは暗い顔をし、うなずく。
「次世代の異能として、ソーニャが矢面に立たなければならない事態を作ったのは、俺だ。原因は、俺のミスだ……そして、いずれこうなることも分かっていた」
チユキは、何かを言い返そうとして、口をつぐむ。
情報管理官が、冷徹な声で、
「ソーニャは強くなろうとしていたのですよ。チユキ、君の言葉で。みんなを守り、この社会が良くなるように、自分を犠牲にしてでも戦う覚悟を決めてね。君は、ソーニャの覚悟を無駄にするんですか?」
チユキは、息を飲み、唇を噛み締める。
フェルグスは、情報管理官の肩をつかみ、
「そのくらいにしろ!」
フェルグスの怒声に、情報管理官はため息をつき、口を閉じた。
「そう言えば……ソーニャは少し目覚めてな。お前を心配していたよ」
チユキは顔を、ばっと上げる。
「少しだけ、ガクとソーニャに会わせてくれませんか?」
【2】
チユキは、騎士に挟まれ、手錠と足枷を付けられた状態で、ソーニャの元へ行った。
ソーニャは、意識が戻っても、すぐにまた眠りに落ちてしまう。危険な状態だった。
よろよろと、チユキが部屋に入る。ソーニャがいた。首元に包帯が巻かれ、息をするのさえ、苦しそうだ。
ソーニャの片目がわずかに開き、
(チユキ……)
「ソーニャ……」
チユキは、涙が零れないように、微笑みかける。
(ごめんね……守れなかった)
チユキは、うつむく。嗚咽が止まらず、涙が零れる。
「そんなことないよ……ちゃんと、守ってくれたよ。ありがとう」
(もっと……強くなるから)
チユキは、ソーニャの手を握り、
「約束だよ! あたしも、ソーニャを超えるくらい強くなるから、だから……」
ソーニャの瞳はまた閉じ、呼吸はゆるやかになる。
「お願いだから死なないで……」
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