4-18
チユキは、牢のなか、《迅刀》のことを考えていた。自分の異能を使い、どう殺せるのか。
チユキの異能―《氷華ファフロスト》―それは霜害の仕組みを使った氷の生成能力。つまり《植物操作》の応用技なのだ。
チユキは、植物の操作範囲も小さい。それこそ《植物操作》では、ガクには、敵わない。だが、この《氷華》だけは、誰にも負けないほどに能力を磨いてきた。
《迅刀》との戦闘を何度も脳内でシミュレーションする。腹の底から、憎悪が沸き上がり、全身の血液を沸騰させる。奥歯が欠けないよう、小さな木の枝を噛み締め、シミュレーションをする。
だが、何度やっても、勝てなかった。だが、勝てるようになるまで、シミュレーションを行うつもりだった。
ふと、手が、かじかんでいることに気付く。夢中で、シミュレーションをやっていたので、無意識に《氷華》を発動していたようだった。
冷え切り、赤くなった手。日々の稽古で、皮は厚くなり、青く変色している部分さえある。チユキは、それを誇らしく思い、優しくさする。
『だいじょうぶだよ』
ふと、かつて研究所で、ソーニャに言われた言葉が思い出される。
数年前―
チユキは、《氷華》をコントロールできず、泣きながら訓練していた。ひたすらに孤独で、周囲に見えない氷が張っているかのような感覚があった。
変わるために、ここに来た。「すごい」になるために、ここに来た。そして、すぐに後悔した。
お前だけができない、お前だけが、お前だけ、できない、できない、できそこない―
研究者に言われた言葉が、ぐるぐると頭を回る。忘れようと、頭を掻けば描くほど、声が大きくなっていく。
疲労で目はかすみ、喉が渇き、意識は朦朧としていた。脇から冷たい汗が流れ、それがいっそう、自分を焦らせる。自分に対する絶望が、肥大化していく。
―もしかしたら、永遠にできないかもしれない
手は凍り付き、涙さえも頬の上で固形化する。それがチユキをみじめにさせた。
―もう、無理だ。あたしなんて、死んだ方がマシだ
かじかみ震える手に、小さな手がそえられる。白く、細い手。だが、暖かい手。
チユキが顔を上げると、憧れの人がいた。生得の異能ではなしえない、異能の利用方法を生み出した才女。「異能力」という言葉には縛られない技術の発展に寄与すると言われた次世代の異能。
『あせるのは分かる。でも、こんなやりかたは、ひこうりつ』
非効率、無駄、無価値……
チユキの脳裏に、言葉があふれ出す。
外付けの異能が。しょせんは、人造異能だな。才能がないんだ。生きている価値がない。もう遅すぎるんだよ。価値がない。死ね―
それらの言葉は、おそらくソーニャにもぶつけられ、そして陰で言われてきた雑言。
チユキは、唖然とし、されるがままになる。ふと、ソーニャの手の温もりが、チユキに伝わっていく。
『わたしは、しってる。ずっと、どりょくしてること』
だから、とソーニャは、チユキの手を強く握り締め、
『……だから、だいじょうぶだよ』
その一言で、世界が反転したかのようだった。
ソーニャの手は、訓練でボロボロだった。一日も欠かさず努力し、鍛錬を続けている証拠だった。皮は厚くなり、変色している部分さえある。
チユキは、我に返る。ふと、ソーニャの手を思い出す。その手が生み出したものも「すごい」。だが、その手こそ―
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