52話
闇のなか、チユキとソーニャの死骸が転がっている。
ガクは、2人の名前を呼ぶ。だが、2人は冷たくなっていく。
「嫌だ! 死なないで!」
闇が消え、真っ白い天井が見えた。全身がむず痒い。
―ここは
ぼんやりとする頭で、ガクは思い出す。そうだ、襲撃を受けたのだ。
思い出す―同時に全身が痛みだす。電撃が走ったような痛みに、ガクは声にならない悲鳴を上げる。ぱくぱく、と呼吸を繰り返し、あえぐ。
白い熱。脳が焼けるような。全身が熱を発し、どくどくと脈打つ。
痛い、いたい、いたい―
何度かの暗転を繰り返し、ガクは目覚める。
エッカルトが心配そうな顔で、見つめていた。
ガクは、からからの喉で、
「チユキ……ソーニャは……?」
「2人とも生きてる」
「良かった……」
ガクは、小さく息を吐く。それだけで全身が痛み、ガクは歯噛みする。脂汗が流れ、傷に染みる。身体は、鉛のように重い。そして、傷が脈打ち、ずきずきと痛む。
だが、この傷と引き換えに、2人を救えたなら良かった―
ガクとは対照的に、エッカルトは表情を曇らせる。
ガクは、うめきながら、
「……誰か、危ない状態なの?」
「ソーニャが……」
エッカルトが、唇を噛み、
「……危険な状態なんだ」
「そうか……」
ガクは、うつろな表情で言う。唇だけは、強くかみしめられる。眼は真赤になり、涙が溢れて来る。
「安心しろ、チユキは元気だ」
ガクの心に、わずかに熱が灯る。
「良かった……」
「だが……」
「だが……何?」
ガクは、エッカルトの顔を覗き込む。
「騎士団は、暗殺者を逮捕し、尋問しようとしている。だが、チユキは違う」
「何をするつもりなの……?」
「暗殺者を殺すつもりだ」
エッカルトが暗い声で言う。ガクは、暗殺者から振るわれた暴力を思い出す。その心臓が激しく鼓動する。
ガクは無意識に拳を握りしめていた。チユキの気持ちは痛いほど分かる。
エッカルトは、
「勝てるのかも分からない。それに、騎士団の意向に歯向かえば……ここから、追放されるかもしれない。ここで得たすべてを失うかもしれない」
ガクは歯噛みする。
確かに暗殺者の所業は許せない。この手で苦しむ様を見ながら殺したい。だが、復讐をすることで、騎士団から追放されるなら話は別だ。
―あんな連中の為に人生を棒に振っちゃだめだ
「チユキを……止めてくれ」
エッカルトが頭を下げて来る。ガクはうなずき、
「分かった。やってみせる」
ガクは、車椅子に乗り、チユキの牢まで連れてきてもらった。酷く眠く、意識がもうろうとしていたが、必死にこらえる。
チユキは、廊下側に背を向けていた。親指を立て、腕を左右に広げて、動体視力のトレーニングを行っているようだ。
「チユキ!」
振り返ったチユキは、一瞬、輝くような笑顔を見せた。しかし、その片耳は、削げ落ちていた。
「ガク……」
その姿を見て、ガクは身がとろけるような安心感を覚える。
「良かった……」
ガクは、よろよろと鉄格子に手を伸ばす。
「本当に……良かった」
2人は、お互いの顔を見て、泣いた。
「調子はどう?」
涙を拭き、チユキが聞く。
ガクは、おどろく。チユキだって、腹を掻っ捌かれたのに、なんで僕のことを心配するんだよ。
「だい……大丈夫」
ガクは大きく息を吐き、
「チユキ……復讐なんて、やめてよ」
チユキは、ばつの悪い顔をした。
「あたしのせいだよ」
「もしかして、ソーニャに言ったことを気にしてるの?」
チユキは首を振り、《迅刀》と対峙した時の状況を話した。
「あたしが、ソーニャを屋敷にとどまらせてしまった。ソーニャがあそこにいなければ、ガクだって……」
チユキは、唇を噛み、嗚咽を堪える。
「あたしが……あたしのせいで」
「違うよ……チユキ」
薄れゆく意識のなか、ガクは言葉を紡ぐ。
ダメだ―
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