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【1】
暗殺者は、何か術を受けたのかと思った。世界が真っ黒に塗りつぶされ、何も見えなくなり、何も聞こえなくなった。
ぶんぶんと剣を振り回し、理解する。視界が完全に消え、聴覚もかき消されているせいで、このようになっているのだ。
あの小娘には、世界が「聴こえている」のだ。もしかしたら、音波による反響を使って、周囲の状況を把握しているのかもしれない。だから、この暗さでも動き回れる。
暗殺者は、ほんの僅かに防音装備を外す。ふと、妙な音が耳に届く。
―思い浮かべたのは、夏の夜
外で、ぺとぺと、しとしと、と雨が降り続いている。そんななか、生温い風が顔にあたるような音がしたからだ。
子どもの頃、ベッドの下や、ドアの隙間からのぞいて来る視線を感じたことがある―そんなことを思い出させるような、生温い風の音。
なぜか、心臓がドキドキと鳴る。生理的な恐怖を感じたからだろうか。
ザッ、ザッ―、と何かに残響しているのだろうか、音はあちこちにぶつかり、ノイズが混じる。
ドキドキドキ、と心臓が鳴り、胸部を押し上げる。べっとりとした汗が衣服を濡らす。
ザッ――ザザ―、まるで砂嵐のような、不愉快な音。それでいて、真っ暗な洞窟に迷い込んだような巨大な残響。
全身から冷たい汗が吹き出し、ふと暗殺者は、ソーニャを見る。そこには、ソーニャはいない。あるのは闇だけ。
闇が、ぬるぬる、と蠢いている。眼の錯覚だろうか。
真っ黒な影から、ぬるり、と何かが顕れる。巨大な山羊の脚。それが二本、ずずず、と影から顕れ、地面に降り立つ。どす黒い毛皮が、闇のなかで震える。
「うぁ……」
暗殺者は、思わず声をあげてしまう。はじめて溺れた時のような閉塞感と、無力感。
闇の中、山羊特有の感情の読めない目が、ぎょろりと動いた気がした。
「あ……あああ!」
暗殺が絶叫した瞬間、その身体を何かが貫く。頭蓋が揺れ、世界が震える。
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