47話
暗殺者は、ソーニャを壁に叩きつけ、意識を奪おうとする。
ふと、ソーニャが動かなくなる。暗殺者は動きを止め、ソーニャを見る。
やっとか倒れたか―暗殺者は、もうろうとしながら、大きく息を吐く。
暗殺者が身体を起こすと、ロウソクの炎がゆらめき、消える。世界が闇に包まれる。
暗殺者は、ふと夏の夜を思い浮かべる。
外で、ぺとぺと、しとしと、と雨が降り続いている。そんななか、生温い風が顔にあたるような音がしたからだ。
子どもの頃、ベッドの下や、ドアの隙間からのぞいて来る視線を感じたことがある―そんなことを思い出させるような、生温い風の音。
なぜか、心臓がドキドキと鳴る。生理的な恐怖を感じたからだろうか。
ザッ、ザッ―、と何かに残響しているのだろうか、音はあちこちにぶつかり、ノイズが混じる。
ドキドキドキ、と心臓が鳴り、胸部を押し上げる。べっとりとした汗が衣服を濡らす。
ザッ――ザザ―、まるで砂嵐のような、不愉快な音。それでいて、真っ暗な洞窟に迷い込んだような巨大な残響。
全身から冷たい汗が吹き出し、ふと暗殺者は、ソーニャを見る。そこには、ソーニャはいない。あるのは闇だけ。
闇が、ぬるぬる、と蠢いている。眼の錯覚だろうか。
真っ黒な影から、ぬるり、と何かが顕れる。巨大な山羊の脚。それが二本、ずずず、と影から顕れ、地面に降り立つ。どす黒い毛皮が、闇のなかで震える。
「うぁ……」
暗殺者は、思わず声をあげてしまう。はじめて溺れた時のような閉塞感と、無力感。
闇の中、山羊特有の感情の読めない目が、ぎょろりと動いた気がした。
「あ……あああ!」
暗殺が絶叫した瞬間、その身体を何かが貫く。頭蓋が揺れ、世界が震える。
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