45話
こうなったら、即興だ―ソーニャは、唇を噛み締める。
ソーニャは、後ろにステップ、窓際へ。装具を身体に引き寄せ、後ろ向きで窓から外へ飛び降りる。
世界が回転し、全身が風に包まれる。3階から落ちたのだ。運がよく出複雑骨折、悪ければ―
ぶわ、と身体が浮かび上がるような錯覚―実際は自由落下。
暗殺者が慌てて、窓枠までやってくるのが外から見えた。ソーニャが飛び降りたのは驚いたのだろう。
ソーニャは壁に装具を押し付け、音波を発生させる。高速で装具が振動。それにより、摩擦が発生する。
ガ、ガガ、と硬い物が削れる音をたてながら、ソーニャはゆっくりと降下。1階の窓に飛び込む。
ソーニャが床に降り立つと、全身が震えた。浮遊感と空気の冷たさが、まだ脳裏にこびりついている。太ももがぶるぶると震え、歯が鳴る。
だが、ここで立ち止まるわけにはいかない―ソーニャは大広間へと走る。
ガガガ、と背後で音がする。暗殺者もナイフを使い、壁を垂直に下りてきたようだ。
大広間の向こう、街へと続く扉が見える。そこで何人もの護衛が倒れているのが見えた。その一人は、チユキだった。
「に……げ……て」
チユキがかすれた声で言う。
ソーニャとチユキの視線がぶつかる。
(あなたじゃ絶対に勝てない。逃げて)
チユキの懇願するような瞳。そこには、わずかな迷い。
ソーニャは考える。
ここから逃げ、街へ行けば、暗殺者は周りを巻き込むだろう。私が逃げたせいで、被害が拡大した―そう人々は考えるかもしれない。
だが、私に勝てるわけがない。逃げたって良いじゃないか、元々、異能者は畏怖されているんだ。ここで逃げても何も変わらない。
ソーニャは拳を強く握り締める。
『最強の異能者でしょ』
チユキの声がよみがえる。その言葉に込められた憧れや期待を思い出す。チユキの隠していた感情が、ソーニャの中で熱となり、心を温めていく。
誰かが変えてくれるのを待つだけじゃない。私「も」変わらなきゃいけない。
拳を握り、ソーニャは振り返る。指が震え、それをもう片方の手で押さえる。
心に火を付けろ―
(大丈夫。私が守るから)
ソーニャは、チユキに言う。チユキは泣きそうな顔をし、ゆっくりと倒れ込んだ。その血が床に広がっていく。
ソーニャは街へ向け、何回か音波砲を放つ―救難信号。これで騎士たちが助けに来るはずだ。
ソーニャは、すばやく振り返る。そこは、暗殺者がいた。装具を抱え、暗殺者と逆方向へ走り出す。
だだだっ、と鈍い音がし、背後の壁にナイフが突き刺さる。どうやら、追従性は低いらしい。
ソーニャは、装具を盾にしながら、走る。時には、装具を振動させ、壁を走る。なんとかナイフから逃げる。
走り続けるが、ついに行き止まりに来てしまう。地下室、暗い廊下にロウソクの火が、ぼんやりと立っている。
かっ、かっ、かっ、と剣を壁に当て、暗殺者が近づいてくる。
ソーニャは振り返らず、ロウソクを音波弾で狙撃。小さな明かりはかき消され、周りは闇が包む。
塗りつぶされたような闇が辺りを包む。
読んで頂きありがとうございます。感想、評価、レビュー、ブックマーク、お待ちしております。




