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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第一部 4章 異能殺し 編
44/66

45話

 こうなったら、即興だ―ソーニャは、唇を噛み締める。


 ソーニャは、後ろにステップ、窓際へ。装具を身体に引き寄せ、後ろ向きで窓から外へ飛び降りる。


 世界が回転し、全身が風に包まれる。3階から落ちたのだ。運がよく出複雑骨折、悪ければ―


 ぶわ、と身体が浮かび上がるような錯覚―実際は自由落下。


 暗殺者が慌てて、窓枠までやってくるのが外から見えた。ソーニャが飛び降りたのは驚いたのだろう。


 ソーニャは壁に装具を押し付け、音波を発生させる。高速で装具が振動。それにより、摩擦まさつが発生する。


 ガ、ガガ、と硬い物が削れる音をたてながら、ソーニャはゆっくりと降下。1階の窓に飛び込む。


 ソーニャが床に降り立つと、全身が震えた。浮遊感と空気の冷たさが、まだ脳裏にこびりついている。太ももがぶるぶると震え、歯が鳴る。


 だが、ここで立ち止まるわけにはいかない―ソーニャは大広間へと走る。


 ガガガ、と背後で音がする。暗殺者もナイフを使い、壁を垂直に下りてきたようだ。


 大広間の向こう、街へと続く扉が見える。そこで何人もの護衛が倒れているのが見えた。その一人は、チユキだった。


「に……げ……て」


 チユキがかすれた声で言う。


 ソーニャとチユキの視線がぶつかる。


(あなたじゃ絶対に勝てない。逃げて)


 チユキの懇願するような瞳。そこには、わずかな迷い。


 ソーニャは考える。


 ここから逃げ、街へ行けば、暗殺者は周りを巻き込むだろう。私が逃げたせいで、被害が拡大した―そう人々は考えるかもしれない。


 だが、私に勝てるわけがない。逃げたって良いじゃないか、元々、異能者は畏怖されているんだ。ここで逃げても何も変わらない。


 ソーニャは拳を強く握り締める。


『最強の異能者でしょ』


 チユキの声がよみがえる。その言葉に込められた憧れや期待を思い出す。チユキの隠していた感情が、ソーニャの中で熱となり、心を温めていく。


 誰かが変えてくれるのを待つだけじゃない。私「も」変わらなきゃいけない。


 拳を握り、ソーニャは振り返る。指が震え、それをもう片方の手で押さえる。


 心に火を付けろ―


(大丈夫。私が守るから)


 ソーニャは、チユキに言う。チユキは泣きそうな顔をし、ゆっくりと倒れ込んだ。その血が床に広がっていく。


 ソーニャは街へ向け、何回か音波砲を放つ―救難信号。これで騎士たちが助けに来るはずだ。


 ソーニャは、すばやく振り返る。そこは、暗殺者がいた。装具を抱え、暗殺者と逆方向へ走り出す。


 だだだっ、と鈍い音がし、背後の壁にナイフが突き刺さる。どうやら、追従性は低いらしい。


 ソーニャは、装具を盾にしながら、走る。時には、装具を振動させ、壁を走る。なんとかナイフから逃げる。


 走り続けるが、ついに行き止まりに来てしまう。地下室、暗い廊下にロウソクの火が、ぼんやりと立っている。


 かっ、かっ、かっ、と剣を壁に当て、暗殺者が近づいてくる。


 ソーニャは振り返らず、ロウソクを音波弾で狙撃。小さな明かりはかき消され、周りは闇が包む。


 塗りつぶされたような闇が辺りを包む。

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