43話
今回、残酷な描写が多いです。
ガクは剣を構え、呼吸を整える。
瞬時に暗殺者を観察―黒い髪を後ろでまとめ、顔は黒い布で覆われている。視線が見えず、不気味だ。
暗殺者は、刀を構える―刀身を前に突き出し、両手が顔の横に来るような構え。そして、その背中からは、細かい霧のような物が出ている。
水分を圧縮し、散布している? 毒か?
ガクは瞬時に《植物探知》で水滴を分析。噴射された液が、瞬時に蒸発しているようだ。だが、毒ではない。
じゃあ、あれはなんだ? チユキのように、氷を作り出すのか?
考えても仕方がない―一瞬で勝負を決めるしかない。
ガクは、とっさに布団を蹴り上げる。白い綿とともに布団の残骸が散る。
暗殺者は、瞬時に反応。布団は両断。しかし、生まれるわずかな隙。
ガクは踏み込み、突きを繰り出す。暗殺者の曲刀を抜け、胴体へ―
ガクの剣が、何か弾力のある物にぶつかる。誰かが、ぐっと握ったかのような、強い力で押し戻される感触。
暗殺者は曲刀を構えているだけだ。手で剣を掴んだわけではない。
ガクの剣は、暗殺者に届かない。まるで見えない盾があるような、異様な感覚。
なぜだ―
ガクの背を冷たい汗が伝う。とっさに後退。風切り音と共に、黒い光が鼻筋をかすめる。
暗殺者は、再度、曲刀を構えなおす。
あの曲刀、何か仕込まれている―ガクは、呼吸をととのえつつ思考。
ガクの剣を何かしらの力で弾いたのだ。おそらく磁力か何か。
ならば、曲刀を使わせないまでだ―
ガクは《加速》を発動。ゆっくりと泥のように暗殺者へ接近―現実の時間の中では、異常な速度で接近。
刀をわずかにずらし、首筋を叩くしかない。ガクは暗殺者の刀を、自分の剣でずらし、横へ―
まず感じたのは、熱。全身に焼けた鉄を押し付けられたような強烈な熱さ。
視界が真っ白/あつ―/あつい/いたいい/たいいたいいたい
ガクの喉から、絞り出すような悲鳴が出る。
床がひんやりとして心地が良い。視界のはしで、血が床に広がっていくのが見えた。
「あ……」
ガクは我に返り、腕を見る―黒い穴が開いていた。ざっくりと皮膚がえぐれている。その傷は数十にもおよぶ。
意識がもうろうとし、ガクは短い呼吸を繰り返す。粘性の液体が口を塞ぎ、何度も咳き込む。
視界がドロドロとしたもので覆われていく。世界がやわらかくなり、全身がフワフワと浮かび上がる。
世界がゆっくりと白く、ぼんやりとしていく。
ガクは、妙にはっきりとした意識で考える。
この傷の原因は、あの水滴だ。あれは、噴射され、水滴が蒸発した数秒後に、非常に微細な結晶になる物質がふくまれているのだ。
結晶に普通の速度で当たるだけなら、皮膚がわずかに赤くなるくらいの切れ味なのだろう。だが、それに《加速》でぶつかれば―
世界が白くにごり、閉じていく。
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