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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第一部 4章 異能殺し 編
39/67

40話

 疲れているのに眠れなかった。割り切って、チユキは布団から出る。


 稽古けいこでもして、疲れれば眠れるだろうか―


 稽古場けいこばへ向かう。すると、稽古場の周囲には、武装した騎士がいた。


 チユキが稽古場をのぞくと、


「ソーニャ様が稽古をしているんだ」


 稽古場をのぞくと、一人ソーニャが装具を持ち、走り込みをし、止まり、装具を構える、と言うのをしていた。


 その細い手足は折れそうだった。その手足からふっと力が抜け、ソーニャが倒れそうになる。


 考えるよりも早くチユキは飛び出していた。そして、装具と、ソーニャを抱える。


「あ……ありがと」


 ソーニャが、弱弱しい眼で、チユキを見つめた。疲労で霞んでいるようだ。


 チユキは、思わず唇を噛んでしまう。


 憧れの人が、必死に努力し、みなの期待に応えようとしている。だが、その姿は弱弱しく、痛々しい。


 こんなの全然「すごく」ない。頭では、そう考えようとする。だが、心のなかは揺らいでいた。


 報われないかもしれない、善くなっている実感など皆無かもしれない。それでも努力をする。その心や姿勢に、チユキは揺れていた。


 これだって、充分「すごい」んじゃないのか?


 チユキは否定するように、頭を振る。だが、ソーニャと出会って数週間、頭のなかで育っていた思考は、無視できないほど大きくなっていた。


 客観的に分かるような強力な能力だけが「すごい」のか? 違うのではないか?


 チユキは、歯噛みし、ソーニャを見る。ソーニャは、弱弱しく息をしながら、


(ごめんね、まだ最強、なれないや)


 チユキはうつむき、無言でソーニャを抱える。そして、女性騎士に預け、稽古場を出る。


 夜風が頬にあたる。


 わたしは、何にこだわっているのだろう―


 冷たい感触が、頬を伝っていく。

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