40話
疲れているのに眠れなかった。割り切って、チユキは布団から出る。
稽古でもして、疲れれば眠れるだろうか―
稽古場へ向かう。すると、稽古場の周囲には、武装した騎士がいた。
チユキが稽古場をのぞくと、
「ソーニャ様が稽古をしているんだ」
稽古場をのぞくと、一人ソーニャが装具を持ち、走り込みをし、止まり、装具を構える、と言うのをしていた。
その細い手足は折れそうだった。その手足からふっと力が抜け、ソーニャが倒れそうになる。
考えるよりも早くチユキは飛び出していた。そして、装具と、ソーニャを抱える。
「あ……ありがと」
ソーニャが、弱弱しい眼で、チユキを見つめた。疲労で霞んでいるようだ。
チユキは、思わず唇を噛んでしまう。
憧れの人が、必死に努力し、みなの期待に応えようとしている。だが、その姿は弱弱しく、痛々しい。
こんなの全然「すごく」ない。頭では、そう考えようとする。だが、心のなかは揺らいでいた。
報われないかもしれない、善くなっている実感など皆無かもしれない。それでも努力をする。その心や姿勢に、チユキは揺れていた。
これだって、充分「すごい」んじゃないのか?
チユキは否定するように、頭を振る。だが、ソーニャと出会って数週間、頭のなかで育っていた思考は、無視できないほど大きくなっていた。
客観的に分かるような強力な能力だけが「すごい」のか? 違うのではないか?
チユキは、歯噛みし、ソーニャを見る。ソーニャは、弱弱しく息をしながら、
(ごめんね、まだ最強、なれないや)
チユキはうつむき、無言でソーニャを抱える。そして、女性騎士に預け、稽古場を出る。
夜風が頬にあたる。
わたしは、何にこだわっているのだろう―
冷たい感触が、頬を伝っていく。
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