39話
森は、完全な闇に包まれていた。そこに数人の男が立っている。全員の背格好は同じに見えた。
「殺害標的は、ソーニャ・ダーン。小柄な少女だ。手配書と、敷地内の地図は覚えているな」
男たちがうなずく。
「《迅刀》お前は最後に来い」
リーダの男が、一人に言う。
《迅刀》と呼ばれた男は、
「分かったよ」
《迅刀》は笑いながら、言葉を発する。その声は若く、軽い。しかし、その顔は、影で見えない。
男たちは、投石器のような機械に集まり、何かを話し始める。
「これ、酔うから嫌いなんだよね」
《迅刀》が苦笑いする。穏やかで、愛嬌のある笑み。
男たちが見つめているのは、人を空に射出する為の道具だ。これを使えば防壁を乗り越えられる。欠点は、射出時にかかる圧力は異常で、多くの人間は気絶すること。それと落下場所の精度が低いことだ。
《迅刀》は、機械下部についている箱を触る。箱を開けると錆色の泥が入っている。それは、どろり、とうごめく。動くたび、金属的な光沢が輝く。
「へぇ……めずらしい」
この泥のようなものは、鉄妖と言い、異能生物だ。身体は液状の細かい金属が集まってできている。この生物は、身体を形成したり、移動する際に、強い磁力を発生させる。
「闇市で手に入れたのか? 高かったろう」
「ああ、これだけで破産するよ。くれぐれも射出で気絶しないでくれよ」
リーダが言い、男たちが射出装置の上に乗る。
「神のご加護を」
鉄妖の強力な磁力と、縄のしなりで、男たちが空高く打ち上げられる。
短時間に3人が射出され、見えなくなる。
「後片付けは頼むぞ」
《迅刀》は、後方支援要員に伝え、射出装置に乗る。そして、鉄妖に指示を出す。全身を巨大な岩石に叩きつけられたような衝撃。息が肺から抜け、一瞬、視界が白くなる。
気が付くと空にいた。夜風が肌を切り、《迅刀》は震える。しかし、眼下の灯りは、まばたきをする間に近づいていく。ぼんやり眺めていたら、すぐに地面に叩きつけられてしまう。
《迅刀》は、滑空羽根を展開する。背から、キノコのように飛び出たそれで、空気をとらえ、静かに滑空していく。狙いは、ソーニャ・ダーンのいる屋敷。
屋敷が見えてきたら、風向きに注意する。流されないようにし、屋根に降り立つ。屋敷の周りは、防壁があり、警備が目を光らせていた。
「思った通り、警備が針の山だ」
リーダーが居た。風に流されず、またここまで無事たどり着けたのは三人しかいなかったようだ。
《迅刀》は、こみ上げる胃液を吐き出す。もし、作戦前に食事でもとっていようものなら、浮力と加速で、胃の中の物をぶちまけることになる。
身体が慣れるまで、少し待つ。同時に滑空羽根を落ちないように固定。
「一人欠けた状態での任務だ。だが、役割は変わらない。《迅刀》、お前は、ソーニャを殺害しろ」
「あんたはどうする?」
「加速の騎士、白銀の狂剣士、激流の女傑……相対したら、まず命がない連中を、複数人で殺す為に、複数行動を行う」
《迅刀》の脳裏に、加速する騎士の姿が思い浮かぶ。時間を操っているかと錯覚するほどの力。奴と一戦交えてみたい。
「分かった」
「よし、行くぞ」
男たちはロープを屋根に固定し、降下。開いている窓から屋敷へと侵入していく。
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