38話
夜の稽古を終え、チユキは水浴びをしていた。
脳裏に浮かぶのは、ソーニャの顔。そのか弱い姿。稽古で打ち負かされ、ランニングでへたり込む姿。
《角笛吹き》なら最強でなくとも、強くあってほしい―チユキは、ため息をつく。
そうじゃなきゃ、ママが言ったような「すごい」じゃない―
チユキが初めてソーニャを見たのは、新しい研究所についた日だった。もともと所属していた研究所とはちがい、次世代の異能を研究するのだと教えられていた。
《角笛吹き》を初めてみた時、チユキは頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
鋭い瞳は、ガラス玉のよう。背筋を伸ばし、装具を背負って歩く姿はリズミカルで、無機質だ。初めて見る《角笛吹き》ソーニャの姿は威圧的ですらあった。古参と聞いていたが、その姿は異質だった。
チユキは身体をふき、自室へ戻る。ベッドに寝転がると、ため息がもれる。
チユキがいた研究所は、アイメルト家とその協力関係にある貴族たちの共同研究機関だった。だが、その目的は政治的に協調するための機関であり、外交のためのものだ。
お互いに明かしても良い技術を共有し、お互いの驚異にならないものを研究する機関。それが実態だった。
チユキは絶望した。自分には異能の才能がないから、こんな場所に送り込まれたのだと。
だが、ソーニャを見て、チユキは再び希望を抱いた。
ソーニャは装具を使い、騎士を遠距離から倒していた。外付けだとしても異能は異能たれるのだ。「すごい」と、チユキは、強く印象付けられた。
ソーニャみたいに「すごく」なれば、わたしも生きていていいはずだ。ここにいてもいいはずだ―
チユキはまた努力を始めた。だが、外付けの異能に対する嘲笑で自信が持てないことも多くなった。だが、それでも遠くからソーニャを見て、気持ちを上向かせていた。
チユキから声をかけることはできなかった。ソーニャのまわりだけ、空気が冷たいかのような錯覚を覚えた。
なのに、実際に話したソーニャは―チユキは唇を噛む。
実際のソーニャは、歳下の少女に過ぎない。それは頭では分かっている。それでも、ソーニャは、異能として「すごく」あってほしい―
あなたは最強の異能じゃなきゃダメなのに。生来の才能じゃなくとも、努力で報われると信じさせてよ。
「あたしってわがままだなぁ……」
チユキは涙を拭き、眠ろうとした。
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