36話
北部同盟中央区・領主の別宅―
庭に、やわらかな日差しがふりそそいでいる。
ガクとチユキは、木影で休んでいた。すこし離れたところで、ソーニャが稽古をしている。
ソーニャが北部同盟に来て、半月たった。異能生活特区の建造もはじまり、世界は少しずつ変わろうとしている。
だが、異能者へ差別や偏見が減っていくのと同時に、ソーニャへの殺害予告も増えた。警備を増やしていたが、本人にも強くなってもらう必要がある。
―とはいえ、ここなら大丈夫か
ガクは、敷地を囲う防壁を見る。ここは、もともと戦争も想定した騎士の城だ。防壁のまわりは、騎士が警備しているし、5メートル近くある防壁は、返しがついているので登るのは無理だ。
ガクは、チユキを見て、
「残党が来なくなって二週間か……ソーニャによるアピールのおかげかな?」
「そ~かもね」
チユキは大きくあくびをし、寝息を立て始める。
ガクは少し笑い、大きく息を吐いた。穏やかな日々―だが、油断はできない。
異能者による襲撃は、炎の能力者の一件が最後だった。だが、あれは、異能は異能でしか倒せないという事をアピールする為のデコイだった。
ガクは、思考を整理する。
残党の目的は、アイメルト家の再興と異能の源《神体》の獲得だ。つまり「異能は異能でしか倒せない」と言うアピールは大きな意味をなさない。それなのに、襲撃は止んだ。
「何か……大きな何かが動いている」
ガクは、ぼそり、とつぶやく。
かあん、と高い音が鳴り、木の棒がくるくると空へ飛んでいく。ガクの思考は途切れてしまう。
「接近戦、苦手だねぇ、ソーニャは」
チユキはあくびをしながら言う。
「まぁまぁ……剣は経験がないと難しいから」
ガクがあわててフォローする。とはいえ、ソーニャの体力のなさに驚いたのは、ガクも同じだった。ランニングすれば数分で息切れ。剣は打ち合いにならない。
「最強の《角笛吹き》、次世代の異能なんでしょ」
チユキが伸びをしながら、嫌味を言う―ソーニャに聴こえていると分かりながら。チユキは、ソーニャに対し、何か思う所があるのか、妙に嫌味なところがある。
ソーニャは、木刀を拾いに行く。その足取りは重く、ふらふらしていた。
《次世代の異能》と呼ばれるソーニャだが、その異名は荷が重いようだ。
北部同盟は「異能が暮らしやすく、差別や嫌悪感情が少ない」ということをアピールするためにソーニャは日々忙しくしている。
教会で講和したり、有力者に会うことを求められているが、ソーニャは人嫌いで、家でこもっているのが好きなのだ。
「お腹空いたし、昼飯にしようか」
みんなで話しながら、食堂へむかう。
もそもそと、ソーニャはパンを食べる。小食で、食べるのもゆっくりだ。みんなは時間を持てあましてしまう。ソーニャも分かっているのか、肩身がせまそうだ。
チユキは、それを知ってか知らずか、
「はぁ~いい匂い……すごいこと、思いついた! ここで寝たら、ごちそうの夢見れるんじゃね?」
「どうかな……」
ガクが困惑していると、
「実験するね! 10分くらいで起こして」
チユキは、そう言い、瞳を閉じ、ぐうぐう寝始める。やれやれ、と騎士たちは言い、くだらない世間話を始める。
気が付けば、ソーニャを待っているという意識が、みんなから消えていた。
ガクはそれを見て、思う。おだやかな時間―こんな時間が永遠に続けば良い。
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