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八重咲の勇者たち ~最弱スキルで最強になれ~  作者: 賢河侑伊
第一部 4章 異能殺し 編
35/68

36話

 北部同盟中央区セントラル・領主の別宅―


 庭に、やわらかな日差しがふりそそいでいる。


 ガクとチユキは、木影こかげで休んでいた。すこし離れたところで、ソーニャが稽古をしている。


 ソーニャが北部同盟に来て、半月たった。異能生活特区の建造もはじまり、世界は少しずつ変わろうとしている。


 だが、異能者へ差別や偏見が減っていくのと同時に、ソーニャへの殺害予告も増えた。警備を増やしていたが、本人にも強くなってもらう必要がある。


 ―とはいえ、ここなら大丈夫か


 ガクは、敷地しきちかこう防壁を見る。ここは、もともと戦争も想定した騎士の城だ。防壁のまわりは、騎士が警備しているし、5メートル近くある防壁は、返しがついているので登るのは無理だ。


 ガクは、チユキを見て、


「残党が来なくなって二週間か……ソーニャによるアピールのおかげかな?」


「そ~かもね」


 チユキは大きくあくびをし、寝息を立て始める。


 ガクは少し笑い、大きく息を吐いた。穏やかな日々―だが、油断はできない。


 異能者による襲撃は、炎の能力者の一件が最後だった。だが、あれは、異能は異能でしか倒せないという事をアピールする為のデコイだった。


 ガクは、思考を整理する。


 残党の目的は、アイメルト家の再興と異能の源《神体》の獲得だ。つまり「異能は異能でしか倒せない」と言うアピールは大きな意味をなさない。それなのに、襲撃は止んだ。


「何か……大きな何かが動いている」


 ガクは、ぼそり、とつぶやく。


 かあん、と高い音が鳴り、木の棒がくるくると空へ飛んでいく。ガクの思考は途切れてしまう。


「接近戦、苦手だねぇ、ソーニャは」


 チユキはあくびをしながら言う。


「まぁまぁ……剣は経験がないと難しいから」


 ガクがあわててフォローする。とはいえ、ソーニャの体力のなさに驚いたのは、ガクも同じだった。ランニングすれば数分で息切れ。剣は打ち合いにならない。


「最強の《角笛吹き》、次世代の異能なんでしょ」


 チユキが伸びをしながら、嫌味を言う―ソーニャに聴こえていると分かりながら。チユキは、ソーニャに対し、何か思う所があるのか、妙に嫌味なところがある。


 ソーニャは、木刀を拾いに行く。その足取りは重く、ふらふらしていた。


 《次世代の異能》と呼ばれるソーニャだが、その異名は荷が重いようだ。


 北部同盟は「異能が暮らしやすく、差別や嫌悪感情が少ない」ということをアピールするためにソーニャは日々忙しくしている。


 教会で講和したり、有力者に会うことを求められているが、ソーニャは人嫌いで、家でこもっているのが好きなのだ。


「お腹空いたし、昼飯にしようか」


 みんなで話しながら、食堂へむかう。


 もそもそと、ソーニャはパンを食べる。小食で、食べるのもゆっくりだ。みんなは時間を持てあましてしまう。ソーニャも分かっているのか、肩身がせまそうだ。


 チユキは、それを知ってか知らずか、


「はぁ~いい匂い……すごいこと、思いついた! ここで寝たら、ごちそうの夢見れるんじゃね?」


「どうかな……」


 ガクが困惑こんわくしていると、


「実験するね! 10分くらいで起こして」


 チユキは、そう言い、瞳を閉じ、ぐうぐう寝始める。やれやれ、と騎士たちは言い、くだらない世間話を始める。


 気が付けば、ソーニャを待っているという意識が、みんなから消えていた。


 ガクはそれを見て、思う。おだやかな時間―こんな時間が永遠に続けば良い。

 読んで頂きありがとうございます。はげみになりますので、良ければ、感想、評価、レビュー、ブックマークお願いします。

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